『プリオン説はほんとうか?』
福岡 伸一著
講談社刊 2005.11初版
価格:¥945 新書 / 246p
ISBN:9784062575041
12月12日、米国産牛肉輸入再開が正式に決まって、18日にも再開第1便が成田に着くとも報道されている。そんな中、『もう牛を食べても大丈夫か』(文春新書)の著者の福岡伸一さんが、狂牛病の原因はほんとうにプリオンなのか、と疑問を呈した新著を発刊された。もし、原因が非常に微細で未知のウイルスであったら、という仮定に立ってプリオン原因説の妥当性を検証している。
著者の福岡伸一さん(青山学院大教授)は「研究者は研究論文で勝負するのが本筋であるという意見があろう。その意味では、本書のように問題点の提示と仮説だけを示唆する一般書を書くのは邪道だという意見もあろう。その批判を甘んじて受けた上で」、狂牛病の原因が異常プリオンタンパク質であるという“定説”が本当かと問うている。狂牛病の歴史的な流れと、97年にノーベル賞をとったプルシナーのプリオン説の妥当性を検証する。いろいろな実験データがプリオン説を支持しているが、異常プリオンタンパク質が病原体であるという直接の証明がまだないのも、また事実である。
BSEの異常プリオンタンパク質原因説は、脳内に達した異常プリオンタンパク質が、正常プリオンタンパク質を異常型に変化させ、その異常型が増えることで発症するという。著者は、アンチ・プリオン説=レセプター仮説の立場をとる。これは、異常プリオンタンパク質が病原体ではなく、細胞表面の正常プリオンタンパク質に未知の微小なウイルスが取りついて作用した結果である、という説である。その上で、プリオン原因説を概括的に見てその妥当性を検証し、その論のほころびに未知ウイルスの可能性を見ている。
正常プリオンタンパク質と異常プリオンタンパク質を一緒にしても異常プリオンは増えないという実験結果や、マウスの実験から病原体ウイルス説を例証する。スポンジ脳症に感染したマウスの脳をすりつぶし、正常なマウスに摂取させると、感染初期には、異常プリオンタンパク質は検出されないが、リンパ臓器の脾臓などに感染能力があるという実験結果から、ウイルス説の可能性を見せている。そして、まだ成功はしていないが、海岸の砂浜の砂の中から砂金の粒を探すような、その未知ウイルス検出に実験を重ねているという。
もし、この未知ウイルス説が正しければ、異常プリオンタンパク質は単なるマーカーでしかない。脳や脊髄などの特定部位を除去したとしても、必ずしも安全ではない、ということでもある。一読の価値は十分。ご一読を。