最終更新日:2007年1月28日
『いまに伝える農家のモノ・人の生活館』

 『いまに伝える農家のモノ・人の生活館』
  大舘勝治・宮本八惠子著
  柏書房刊 2004.10発行
  価格:¥9,975 B5版変形 / 338P
  ISBN:9784760125838

気になる本
2005.12.30 / No.105
■暮らしの手わざの伝承、
 『いまに伝える農家のモノ・人の生活館』

 60年代高度経済成長に伴い、かつての農的生活の基盤は一挙に崩壊した。農具のみならず、生活のあらゆる面で、それまで営々と引き継がれてきた手わざや生活用具から衣類にいたるまでが様変わりした。そして、そのほとんどが途切れてしまった。私事になるが、祖父は、炭を焼き、竹を編み、臼を刻むような山住の手わざの伝え手だったが、30数年前、80歳を前に亡くなった。それから十数年して、祖父から竹細工を習わなかったことを悔いた。気が付くのが遅かった。消え去ろうとしていた農的生活、暮らしのの手わざのいくつかは、かろうじて、この本の著者たちのような人々によって見出され、記録されることとなった。

 この本は、埼玉県一帯の農的生活を掘り起している。米、麦、さつまいもの栽培、製茶、養蚕、機織り、屋根葺きの道具とやり方、野良着、嫁入り衣装など、埼玉県内の農村部を中心とした農的生活の伝統の知恵とかたちをまとめている。この本が出色なのは、水桶のような生活用具や、野良着、唐箕のような農具の詳細な図版と採寸が行われているところにある。あるいは、野良着の着方、背負子による背負い方、藁ボッチの積み方などのようなところにまで、暮らしの技を図版で伝えようとしているところにある。

 江戸期の農業のエネルギー収支は、200%を超えていたという試算がある。現代のそれは、100%を切っているという。つまり投入エネルギーに対して、生産物から得られるエネルギー(投出エネルギー)が少ないのである。無駄にエネルギーを使っている、ということでもある。このエネルギー収支の逆転は、60年代に進行したとも言われている。石油化学工業からの資材、化学肥料、農薬に依存し、エネルギー収支がマイナスになるようでは、持続可能な農業といったところで先は見えている。すでに原油埋蔵量のピークは過ぎたとか、あと10年を割ったといわれる今、消え去ろうとする寸前に、かろうじて掘り起され記録された暮らしの技が生き返ってくる。

 かろうじて1万円を切る価格に押えたところに、著者と編集者の意地を感じる。図書館でどうぞ。