最終更新日:2008年5月19日
2008年5月の農と食

2008.5.19 No.497
■厚労省 体細胞クローン後代由来製品流通の可能性に言及

 厚労省は5月19日、東京で開催された「体細胞クローン家畜由来食品に関する説明会」の席上、体細胞クローン牛の子孫由来の製品がすでに流通している可能性について言及した。

 この可能性への言及は、会場からの「なぜ、この時期に食品安全委員会に諮問したのか」という質問に対してなされたもの。意見交換のパネリストの一人の佐々木昌弘課長補佐(厚労省医薬食品局食品安全部企画情報課)は、食品安全委員会への諮問の理由として、欧米での体細胞クーロン牛解禁の流れ、国内での体細胞クローン牛に関する研究や情報収集が一定程度終わったこと、体細胞クーロン牛の後代由来の製品(肉や乳製品)の流通の可能性が出てきたこと、と3点を挙げた。

 この唐突とも思われる言及に会場から確認の質問があったが、佐々木課長補佐は「明確な証拠があるわけではないが」と断りつつ、米国・FDA(食品医薬品局)が出荷自粛の要請を取り下げたことにより流通の可能性が出てきたと明言した。

 一方、米国ではこの1月、体細胞クーロン牛の精子が流通しているというニュースが流れている。この報では、米国カンサス州の業者クーバー氏はこの数年、コンクールで入賞したクローン牛の精子を多くの牛の生産者に販売したと明言している。このことについて彼は「この技術が使われず、食品ルートに乗っていないという話はおとぎ話だ」とも語っている。

 このニュースではまた、体細胞クローン牛の出荷自粛について米国農務省筋が、クローン後代については撤回されたとも述べている。

 ・star-telegram.com, 2008-1-17

 つまり、少なくとも片親が体細胞クローン牛である牛(体細胞クローン牛後代)由来の牛乳や乳製品、あるいは肉そのものが流通している可能性が大きい。すでに日本の輸入されている可能性を否定するものではないだろう。唐突な発言とはいえ、厚労省の認識は正しいといえるだろう。

 米国内での体細胞クローン“解禁”に伴い米国農務省は1月中旬、非公式に体細胞クローン牛とその後代に由来する製品の輸入解禁を打診していたと報じられている。

 ・共同通信, 2008-5-10

 意見交換の場では、体細胞クローンに賛成する声は一つも出ず、拙速な結論を出さないように求める意見が多く出された。その安全性についても、「悪いという証拠がないとしても、安全であるという証拠もない」ことや、この体細胞クローン由来食品が日本だけの問題ではない以上、コーデックスの場で議論すべきであるという意見もあった。さらには、表示の義務化を求める声も多く、これに対して牛尾厚労省参事官は、「公式に表示をどうするかということは明らかにできない、というのが公式見解」と述べるにとどまった。

 この体細胞クローン由来食品について厚労省は4月1日、食品安全委員会に「体細胞クローン技術を用いて生産された牛及び豚並びにそれらの後代に由来する食品の安全性について」食品影響評価を求めた。これは、あいにくとエープリルフールの冗談ではなかった。食品安全委員会では新開発食品専門調査会に体細胞クローンに関するワーキンググループを設置し、審議を始めている。

 ・食品安全委員会

 厚労省が「体細胞クローン由来食品が人の口に入る可能性がある」と判断している以上、まず「予防原則」に立ってその流通を止めることが先決であろう。後になって大きな問題となった血液製剤やアスベストの例を見るまでもないだろう。