米国農務省国立動物病センターなどの研究チームは9月12日、2006年3月に見つかった米国3例目のBSE牛が遺伝子の異常から異常プリオンたんぱく質を体内で作ることが分かった、とPLoS Pathogens(電子版)に発表した。この発表によれば、遺伝子変異による最初のBSE牛であり、この遺伝子の変異はヒトの変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)と同じ変異であるしている。また最新の疫学的研究によれば、牛におけるこの遺伝子変異は0.05%以下であるとしている。
この研究チームの一人であるユルゲン・リヒト氏(現カンザス州立大教授、国際獣疫事務局顧問)は、「世界中のどこでも、BSEがないという国であってもBSEは起こりうる」と警告している。リヒト教授は、牛の遺伝子検査が必要であり、彼の研究チームはすでに検査システムの特許出願を行ったという。米国特許の検索では、まだ公開されていないようだ。
従来、BSEは肉骨粉などを解して異常プリオンたんぱく質が“感染”し、脳内で異常プリオンたんぱく質を増加させることで発症するとされたきた。この研究の示すことは、理非と教授の言うように、いくら飼料規制を行ったとしてもBSEの発生を防ぐことは出来ないということに他ならない。米国は2007年5月、OIE(国際獣疫事務局)より「管理されたリスクの国」とのお墨付きを得ている。しかし、2008年に入ってBSEの危険性が高いといわれているヘタリ牛(ダウナー牛)を肉牛として処理し、それが学校給食にも供給されていたことが暴露されている。米国のBSE検査体制はザルのようなものと言わざるを得ないだろう。
米国においてBSEの自主検査を求めた食肉加工業者のCreekstone社による訴訟に連邦地裁は2007年3月、ク社の訴えを認める判決を下していた。この判決に米国農務省は控訴していた。この8月29日、ワシントン連邦高裁は、民間業者による検査は「安全性を保証できない」という1審と逆の判決を下している。
米国では。年間3千万頭が肉牛として処理されている。リヒト教授らの研究によりその遺伝子変異が0.05%以下であるとしても、最大に見積もっても年間15,000頭に問題の遺伝子変異が起きている可能性があることになる。これらすべてがBSEを発症していない潜在的な感染牛ではないとしても、感染牛が紛れ込んでいる可能性が高いといえるだろう。さきの連邦高裁の判決を考えるとき、こうした感染牛をどのように取り除くのだろうか、はなはだ疑問である。こうした米国の政策は、結局「くさい物に蓋」でしかない。そのつけは誰が払うのか。