最終更新日:2011年1月29日
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2011年1月の農と食

2011.1.29 No.512
■米国:押し戻された「共存」 野放しのGM

 米国農務省は1月27日、モンサント社の除草剤ラウンドアップレディ耐性の遺伝子組み換えアルファルファの栽培規制について全面撤廃を発表した。この決定に対して有機農業関係団体や食品安全センターなどは抗議の声明を出した。

 ・農務省動植物検疫局(APHIS)

 このGMアルファルファの栽培について、米国連邦最高裁は2010年6月、環境影響評価が不十分であるとの理由で、規制緩和が措置されるまでの間の栽培禁止の決定を下していた。最高裁の決定を受けて農務省は、昨年12月16日、GMアルファルファの栽培規制に関する環境影響報告書(EIS)を公表し、次の3つの選択肢を提示した。

 (1) 規制を解除せず商業栽培を禁止する
 (2) 一切の規制を行わなわず商業栽培を認める
 (3) 地域的な制限と隔離距離の設定により非GM作物との共存を図る

 ・USDA, 2010-12-16

 この報告書の公表に当たり農務長官トム・ビルサックは、GM作物の安全性について疑いは全くないが、成長している有機農業や非GMセクターとの共存が難しい、と述べている。

 ・USDA, 2010-12-16

 米国農務省は、(1)の栽培禁止のオプションを除いた2つについて1ヵ月のパブリックコメントを求めた。オプションとはいえ3番目の「共存」は、これまでの米国のGM政策では“画期的”な政策変更となりえるものであり、GM作物への懸念や反対する有機農業などへの歩み寄りとも取れるものであった。

 ●反発し巻き返しにでた推進派

 この「共存」の提案には直後から、GM推進のマスコミや生産者団体から反発が起きていた。モンサントなどのバイテク企業のみならずGM推進派が危機感を持ち、猛烈な巻き返しに出たことは想像に難くない。1月5日には主要作物の5つの生産者団体が「新しいバイオテクノロジーツールの継続的で安全な開発、入手可能性と市場性に対して危険な先例」とする書簡を上下両院の農業委員会へ送った。

 ・Drovers, 2011-1-10

 1月5日付けのフォーブス(電子版)は、"Sack Vilsack!"(ビルサックを首にしろ!)という大仰な見出しで、「農務省は間違っている」「わずか1%の有機農民優先して、環境にも安全なGM作物をダメにさせたがっている」と断じている。食品安全センターなどによる栽培禁止を求める訴訟についても「些細な不注意をつついた」と非難している。

 ・Forbes, 2011-1-5

 ●多額のロビー活動費を投入してきたバイテク企業

 この間、一方の当事者たるモンサントは公式には何も発言していないようだ。同社のプレスリリースにもこの件への言及はなく、ニュース報道にも見られなかったが、何らかの議会へのロビー活動は行われていたと見るのが普通だろう。昨年11月、Food & Water Watch(米国)は、2009年からの10年間でモンサント、シンジェンタなどのバイテク企業がロビー活動に使った費用が5億7千万ドルに達するという調査を公表している。モンサント1社では約5千万ドル。これは表に出た額だけでだ。

 ・Food & Water Watch, 2010-11-17

 1月19日には米国下院農業委員会は、共和党議員3名によるビルサック農務長官に宛てた書簡を公表した。この書簡は、「共存」オプションが、科学的にGMアルファルファが安全であるにもかかわらず将来的に危険な先例を作るものであり、科学に基づいて栽培を認めるように要求している。さらには、このオプションが規制プロセスを政治化するもの、としている。書簡自体が「共存」オプションを政治化させているのに、である。

 ・下院農業委員会, 2011-1-19

 米国政府は昨年10月、乳がん遺伝子特許に関連して「単なる遺伝子には特許を認めない」とする答弁書を提出していた。これは、従来の“遺伝子なら何でも特許」を大きく変更するものであった。それに引き続いてビルサックが、オプションの一つとはいえ「共存」を提起したことは、米国政府のGM政策の大きな転換を期待させるものがあったが、GM推進という鉄壁に穴は開かなかった。

 ・NewYork Times, 2010-10-29

 ●共通の敵に対して闘おう:食品安全センター

 今回のGMアルファルファの栽培規制全面撤回は、推進派の巻き返しや政治的圧力により押し戻された結果だろう。これに対して、当然のことながらGMに反対してきた有機農業関連団体などから失望が表明され、抗議声明が出されている。ロデール研究所は「さようなら、有機酪農」とGM汚染の拡大に危惧を新たにし、有機トレード協会は「GMはフリーパスとなる」と同様な失望と危惧を表明した。少なくとも野放しでGM作物が栽培されることは、花粉による汚染を介して、有機農業や非GM作物が一方的に被害を受けるということでもある。昨年末にはオーストラリア・西オーストラリア州で、隣接するGMナタネ栽培による有機ナタネへのGM汚染が明るみになっている。

 ・Rodale Institute, 2011-1-27
 ・Food & Water Watch, 2011-1-27
 ・Organic Trade Association, 2011-1-27

 1月28日、GMアルファルファ栽培禁止を求めて提訴した当事者でもある食品安全センターは、仲間割れせず大同につき「GMという共通の敵に対して闘おう」と呼び掛ける声明を出した。

 ・Center for Food Safty, 2011-1-28

 ●すでに食用として栽培も承認:日本

 モンサントのGMアルファルファについては、カルタヘナ法に基づき3種類が「食用又は飼料用に供するための使用、栽培、加工、保管、運搬及び廃棄並びにこれらに付随する行為」を2006年2月10日に、また食用として2種類が2005年10月14日に承認されている。種子がスプラウト用に混入した場合を考慮して「食用」として承認されているようだ。また、GMアルファルファを使用した食品には表示が義務付けられている。

 ・バイオセーフティクリアリンハウス
 ・厚労省 , 2010-10-8
 ・農水省