グリーンピースは8月31日、β−カロテンを強化した遺伝子組み換えのゴールデンライスの人体実験が、2008年に中国で行われたとの論文が見つかったと発表した。問題の論文は7月に、アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリションで発表された。
この人体実験は、米国・タフツ大学の研究チームによって、中国湖南省衡陽市で、健康な72人の6歳から8歳の児童を対象に行われたもので、放射性炭素C13で標識化されたゴールデンライス、ホウレンソウ、合成カロテン使われた。72に人のうち24人に、1日当たり60グラムゴールデンライスが3週間にわたって与えられたという。アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリションで発表された論文では、ゴールデンライスのβ-カロチンが油中のβ-カロチンと同等であった、としている。
・グリーンピース, 2012-8-31 ・The American Journal of Clinical Nutrition ・Shanghai Daily, 2012-9-1湖南省政府の担当者は9月1日、このグリーンピースの告発を否定し、衡陽市のスポークスマンは、この実験が「ゴールデンライスや他のGM食品を使ったもので」ではなく「すべての食品は中国産」であり、「実験について、事前に親に連絡されていた」と語った、と新華社は報じている。また、湖南省政府の担当者は、この研究には米国の研究者は関与していない、としている。
・新華社, 2012-9-1こうした中国側の関係者の“苦しい”言い訳が事実であるとすれば、発表された論文が宙に浮くことになる。おそらくグリーンピースの発表が正しいのだろう。中国政府は、みっともない言い訳をせず、事実関係を明らかにし、ゴールデンライスを与えられた児童に健康被害がなかったかも明らかにすべきである。当然、タフツ大学などの米国側関係者も、同様に事実関係を明らかにすべきだ。
このようなGM作物による人体実験では、2007年ごろ、米国のGMベンチャー・Ventria Bioscience社によるものがある。同社はペルーで、乳幼児に対して、ヒトのタンパク質産生遺伝子を組み込んだ遺伝子組み換えのコメによる下痢止め薬の人体実験を行い、大きな非難を浴びた。
また、ゴールデンライスを使った2相試験が行われたとすれば、それ以前にラットなどによる試験が行われていたはずである。グリーンピースは、この点については言及していない。それらについても、掘り起こしとともに、問題がなかったかの確認が必要だ。
ゴールデンライスはコメにスイセンの遺伝子を組み込み、β−カロテンを産生するようにした遺伝子組み換えのコメである。開発当初、1日の必要なβ-カロテンをゴールデンライスから摂ろうとすると、1キロ以上食べなければならず、非現実的であると非難された。ビタミンAの不足による健康障害には、そもそも野菜などのおかずが満足に食べられない経済的な問題が大きく、ゴールデンライスは意味のないものとする批判が大勢であった。食料危機のなか、依然としてこの批判は生きている。
あえて遺伝子組み換え品種を持ち込む必要もない。たとえば、ナイジェリアでは、F1品種ではあるものの、β−カロテンを75%強化したトウモロコシが実用化されている。他にも、β−カロテン強化のサツマイモなどが実用化されている。
しかし、開発したシンジェンタ社は、ゴールデンライスの特許使用権を、“非営利”と自称する Golenrice Project に供与し、IRRI(国際イネ研究所)とともに、商業栽培へ向けた活動を行ってきている。ちなみにIRRIの開発チームの責任者は、モンサント出身である。
ゴールデンライスの商業栽培へIRRIなどは2011年、ゲイツ財団やヘレン・ケラー財団などから補助金を得ている。現在、バングラデシュとフィリピンで試験栽培が実施され、2013年度からの商業栽培がアナウンスされている。この商業栽培では、ゴールデンライスの形質を、両国の「コシヒカリ」のような一般的なコメの品種に導入され、広範な栽培を目論んでいる。今年に入って、ゴールデンライスは、ベトナムへも供与されていると報じられている。あまり表面化しないものの、アジアでの遺伝子組み換えのコメの商業栽培の目論見が進行している。
こうした状況の中で、バングラデシュとフィリピンの商業栽培を許すのか。その帰趨は、日本での商業栽培とも無縁ではないはずだ。農水省などの資料でも、日本での栽培可能性があるのは、コメぐらいしか残っていないと思われる。現在、農業生物資源研究所が開発に力をいれているのは、4大GM作物(ナタネ、ダイズ、トウモロコシ、ワタ)ではなく、遺伝子組み換え複合病害抵抗性イネである。