最終更新日:2012年9月19日
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2012年9月の農と食

2012.9.19 No.544
■顕在化してきたチェルノブイリの放射能汚染

 2012年4月、福島原発事故を受けた食品の放射能汚染の新基準値が施行(一般食品100ベクレル/キログラム)された。これ以降、輸入食品の中から、チェルノブイリ原発事故由来の放射能汚染が顕在化してきた。

 ● 相次ぐ輸入食品の基準値超え

 チェルノブイリ原発事故後には370Bq/Kgという輸入基準値が設定されていた。今年4月以降は、一般食品の基準値が100Bq/Kg まで下げられた。このため、これまで表面化しなかったチェルノブイリ事故による汚染が、欧州からの輸入食品で、相次いで明らかになることとなった。おそらく、これまでも見つかっていたものの、基準値内ということで非公表だったということと思われる。

  輸入食品の検出事例(2012年4月〜8月)
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       品目 
   月  放射能[Bq/Kg]/原材料原産国 
  ----------------------------------------------
  4月 オーストリア産ブルーベリージャム
     140Bq、180Bq、220Bq /ポーランド原産
  6月 フランス産ブルーベリージャム 
     180Bq /ウクライナ原産
  7月 フランス産ブルーベリージャム
     150Bq /ポーランド原産
  8月 英国産ブルーベリージャム
     190Bq /ポーランド・ウクライナ原産
  8月 フランス産キノコ(ラッパタケ)
     220Bq /フランス原産
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 26年経った今も放射性セシウムがブルーベリーから検出されている。現在はほぼ半減しているが、ポーランドの汚染は5,000〜15,000Bq/m2といわれている(『食卓にあがった放射能』)。文科省の航空機モニタリング結果では、関東地方でもこの程度以上に汚染されている地域は多い。厚労省の公表データでは、ブルーベリーは加工品も含めて370件検査されている。その約4分の1から放射性セシウムを検出していて、100ベクレル以上は2件である。ジャムに加工することで、ある程度濃縮されるとしても、要注意だろう。

 フランスの土壌汚染は100〜1,000Bq/m2といわれている。8月に放射性セシウムを検出したラッパタケは、栽培ものか野生であるか明らかではないが、220Bq/Kgを検出していることに注意すべきだ。セシウム137の半減期である30年を経ても、野生のキノコにはかなりの汚染が残るということだ。

2012年チチタケ汚染マップ
  [画面クリックで拡大]

 事故後1年半、日本の野生キノコも高濃度に汚染されている。福島県から長野県まで共通して調べられているのが食用のチチタケ。このキノコは、とくに栃木県で人気の高いキノコでもある。8月6日には、栃木県日光市で採取のチチタケから3万1千Bq/Kgを検出している。地中に広く菌糸を張りめぐらして養分を取り込むキノコは、多量の放射性セシウムを吸収する。90年代の調査でも最大16,300Bq/Kg の検出例もある。日常的に多食するわけではないにしても、野生のキノコは要注意である。

 ● 北欧産原料のオートミールからも検出

 8月1日には、日本食品製造(北海道)で製造し、香港へ輸出されたオートミールからセシウム7Bq/Kgを検出したと報じられた。香港当局は低レベルであるとして回収の指示は出差なかった。香港の基準はCODEXに準拠し、総セシウムで1000Bq/Kgである。

 ・Food Safety News, 2012-8-2

 日本食品製造社は8月2日付けで「香港特別行政区政府の食物安全センターの発表について」を公表し、汚染の原因は不明であるが、原材料は定量下限値20Bq/Kgで検査していると発表した。

 ・日本食品製造, 2012-8-2  ・香港特別行政区政府食物安全センター, 2012-8-1

 日本食品製造の資料によれば、同社のオートミールの主原料のえん麦(オーツ麦)は、主にフィンランド産を使用し、状況により米国又はオーストラリア産を使用するとしている。

 日本食品製造は8月7日、8月9日製造分から原料のオーツ麦について、フィンランド産の使用を停止し、米国産もしくはオーストラリア産に切り替えると発表した。この切り替えは、フィンランド産オーツ麦を検査(検出限界約3ベクレル)したものの、不検出であったが、Cs134が検出されていないことから、同社での混入は考えにくく、選の可能性を排除するためにフィンランド産の使用を停止したとしている。

 ・日本食品製造, 2012-8-9

 同社は同時に、なぜフィンランド産を使用したかについても理由を公表した。その中で「日本の生産者のように、フィンランドの生産者も小規模の家族的農業をしており、非常に高い技術を持ち、また、法令を順守し、環境保全にも力を入れていることが確認できたから」だとしている。良心的な企業が、放射能に足をすくわれたようなもので、残念。

 ・日本食品製造, 2012-8-7

 ● 北欧産輸入木材にも汚染

 北欧産木材の焼却灰からも、かなり高い濃度のセシウムが検出されている。秋田県大館市は3月19日、スウェーデン産の赤松を加工した木質ペレットの燃焼灰から1300Bq/KgのCs137を検出と発表した。半減期2年のCs134が未検出なのでチェルノブイリ由来としている。灰は業者が自主回収している。

 ・共同通信, 2012-3-19

 高知県では5月16日、岡山県の銘建工業が欧州産木材から製造した木質ペレットの燃焼灰から3,890Bq/Kgの放射性セシウムを検出したとの連絡があったと発表。ハウス加温用の木質バイオマスボイラーに使用していたもの。県調査でも2,000Bqを検出したと発表した。

 ・高知県, 2012-5-16

 銘建工業は集成材製造の際に出るプレーナー屑を木質ペレットに加工。同社のサイトにはこの件の発表はない。高知県の発表では「欧州産」とのみあるが、同社は国産材の集成材も、各地の森林組合などから受注、製造しているようだ。

 高知県の発表では、昨年度約3,000t(見込み)が同県のバイオマスボイラー144台で使用されている。原材料や木質ペレットの検査については言及がないが、周辺への影響は「安全性に問題のないレベル」としている。この木質ペレットの原材料が、欧州産材となると、欧州産ブルーベリージャムからの検出事例もあり、欧州にはまだ、チェルノブイリの影響がかなり残っているということになる。

 木質ペレットの焼却灰について林野庁は3月27日、その燃焼による灰の放射能濃度の調査結果を公表している。数10Bqが燃焼により100倍程度に濃縮し、長時間燃焼でより濃縮の傾向もあるという。神奈川県でも、竹灰から1,000Bqを超える例があり注意が必要である。

 ・林野庁, 2012-3-27

 95年頃、スウェーデン・ハウスで自宅を建てた知人は、「一度測ってみたいが、怖くて測れない」と云う。燃焼灰が100倍程度に濃縮されるということは、材木自体はせいぜい数10Bq/Kg 程度の汚染ということになる。おそらく、線量計ではほとんどはっきりとは測れないと思われる。こうした北欧やロシアからの汚染された輸入木材を原料とする木質ペレットなどによって、今までも、数千ベクレルの放射性セシウムに汚染された灰はあったはずで、知らずに埋め立てられ、あるいは畑に肥料として使用されてきた可能性は大きい。草木灰については、原材料とその放射能濃度をあらかじめチェックするなどの、自衛的な管理が必要である。

 ブルーベリーにしろ木材にしろ、四半世紀経ってもこうした汚染が残っているということは、残念なことだが、これから四半世紀後の日本でも、同じような放射能汚染が残っているということでもある。