
Public Patent Foundation(PUBPAT)や米国自由人権協会による、ヒト遺伝子特許無効訴訟の米国最高裁の審理が4月15日始まった。この裁判は、米国のミリアド社の持つ乳がんと卵巣がんに関連する2つのヒト遺伝子の特許無効を求め、15万人以上の遺伝学者、病理学者、研究者なども原告となり2009年8月に提訴していた。
・PUBPAT, 2013-4-15原告の主張は、ミリアド社の特許はヒトの遺伝子そのものに与えられたものであり、そもそも特許の対象となりえないという当然のもの。自然の存在であるヒトの遺伝子の特許は不合理で許されない。米国最高裁は1980年、石油分解バクテリアの特許に関するチャクラバーティー事件の判決で、遺伝子に特許を認める判断を示した。この結果、モンサントのような遺伝子組み換え特許を使った種子ビジネスに道を開いた。ニューヨーク・タイムズによれば、米国はヒト遺伝子の20%に特許を認めているとされている。
・New-York Times, 2010-10-29ミリアド社は、この特許による2つの遺伝子BRCA1とBRCA2について、他の研究機関の使用を禁止する一方、この遺伝子の変異を検査し、乳がんの可能性をチェックする遺伝子検査ビジネスを展開している。この検査料金は、1件あたり4千ドル前後と高額。これには、検査料が高すぎて誰もが検査を受けられない、恩恵をこうむるのは高所得者だけとして非難されていた。
1審は2010年3月、全面勝訴した。これを受けて米国司法省は同年10月、控訴裁判所へ意見書を提出し「単なる遺伝子の特許は無効」と、単純明快な判断を示し、注目された。しかし、2012年8月、ミリアド社の特許を有効とする最終的な控訴審決定がなされ、原告が最高裁へ上告していた。
●“私の遺伝子は会社のものではない”
ヒトの遺伝子に特許を認めることは、自分の身体を形作っている遺伝子が企業の所有とされることであり、自分の身体が自分自身のものではないことも意味する。ミリアド社による遺伝子の働きの“発見”は、少なくとも、乳がんリスクを持つ人たちには称賛に値することだろう。しかし、そのことを自己のものとして“所有”し、企業利益の道具とすることは許されることではないことも自明なことだ。
この6月にも示されるとみられている最高裁の決定は、遺伝子組み換え作物ビジネスに道を開いたチャクラバーティ裁判の決定のように、米国企業のみならず、世界中の人々の健康や生活に大きな影響を与える可能性がある。最高裁判事の中には「特許無効に慎重」という報道もあるが、米国最高裁は「特許無効」の常識的な判断を下すべきだ。
遺伝子組み換え特許についてPUBPATは、モンサントの基本特許の無効を米国特許商標庁に求め、07年に画期的な無効審決を引き出している。もっともこの審決は、モンサントの異議申し立てで撤回されたようで、関連情報がPUBPATのサイトからも削除されている。
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