欧州特許庁(EPO)は6月12日、モンサントの子会社で、従来育種の世界的な種苗企業セミニス社の、遺伝子組み換えでない“収穫が容易な”ブロッコリーに対して特許を認めた。遺伝子組み換えでない従来育種品種に特許を認めるEPOの特許政策については、2百万人の反対署名が集まっていた。
欧州の生産者はもとより消費者の団体は、種に対する特許の付与が、種苗における寡占化を進行させ、食料選択の自由を失わせると批判し、連合して反対運動を展開している。
・no patent on seed, 2013-6-12 ・The patent EP 1597965(EPO特許公報)今回特許を認められた大手種苗企業のセミニス社は2005年、14億ドルでモンサントに買収された。2004年当時、野菜や果実種苗のセミニス社のシェアは全世界の約20%であった。モンサントは買収にあたって、「モンサント・カンパニーの持つ卓越した技術を野菜や果物にも拡大できる可能性がある」との声明を出している。
この買収は当時、一般的な野菜や果実の遺伝子組み換え化への布石と見られていた。いままでのとkろ、セミニス社による遺伝子組み換え品種開発の動きは明らかになっていない。しかし、この買収でモンサントは、多くの遺伝資源を手に入れたことは間違いない。モンサントによる、一般野菜の遺伝子組み換え品種開発の動きも明らかになっていない。
世界的な種苗業界の規模は、主要62ヵ国における種子販売額が370億ドルから426億ドルに達すると見込まれる中、こうした特許で“保護”された従来育種による種苗は、急速にその規模を拡大している。2013年3月に開かれた食料・農業植物遺伝資源条約の作業部会の報告書は、その販売額を、2012年の7億ドルから急拡大し、2020年には30億ドルに達すると見積もられているとしている。
●自家採種権の制限に向かう国際条約
新たな育成品種には、特許ではなく20年から30年にわたる長期の育成者の権利保護制度もある。日本では種苗法による種苗登録制度である。この保護制度の国際条約がUPOV条約(植物の新品種の保護に関する国際条約)であり、日本政府は、このUPOV条約を東アジア全域に広げようとしている。
このUPOV条約は、育成者権の保護が建前であるが、国際的なNGOのGRAINは、UPOV条約の次のステップの目的は、自家採種の全面的な禁止にあるとしている。現在、世界の多くで自家採種の種苗が使われて、途上国では80%から90%が、先進国でさえ30%から60%が自家採種の種苗が使われている。こうした自家採種の種苗を、全世界一律の条約により全面禁止を狙っているとしている。そして、商業的に販売される種苗の使用を法的に強制し、その利益をモンサントなどに代表される巨大な種苗会社の懐へ入れようとしていると分析している。
・GRAIN, 2007-2-16自家採種の制限は、単に種苗会社の経済的利益にとどまらな。種苗会社の供給する限られた品種への依存は、何を作って、何を食べるのかという「食料主権」への制限に他ならない。グローバル化した種苗会社に、種子の供給や新品種の開発をゆだねるならば、欧州の人々が反対するように、食の質の低下、生活の質の低下を招くだけで、良いことは何ない。
●「種子主権を取り戻す」ということ
1997年のアジア通貨危機では、韓国も大きな影響を受けた。このドサクサに、モンサントやシンジェンタなどの外国資本が、韓国の種苗会社を買収した。日本のタキイ種苗も、韓国第7位のチョンウォン種苗を買収している。その結果、韓国の野菜種子市場の外国資本系企業のシェアは、一時70%近くまでになったという。近年、モンサントが中国市場に軸足を移す中、2012年に韓国資本がモンサントコリアの買収に成功し、シェアを65%まで回復させた。この買収に識者は「種子主権を取り戻す」とコメントしている。
・中央日報, 2012-9-14自らが種を守り育てる「種子主権」は、とりもなおさず、自らの食料と農業の形を決める人々の権利である「食料主権」を担保するものだ。種を押さえられることは、何を食べるかを決められないことでもある。少なくとも、国というレベルであったとしても、外国資本から種苗会社を買い戻し、「種子主権を取り戻した」ことは当然のことだ。
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【参考】
・外務省, 2013-4-2