最終更新日:2013年7月5日
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2013.07.05 No.565
■やっと始まったGM小麦検査
  汚染ルートは迷宮入りか?
イメージ:小麦

 米国オレゴン州の圃場で5月29日に明らかになった、モンサントの除草剤耐性遺伝子組み換え小麦MON71800の検査がやっと始まった。農水省は7月5日、この3日より米国産小麦について、GM小麦混入の検査を開始したと発表した。これまでに約120万トンの検査を終え、全ロットからGM小麦が検出されなかったとしている。モンサントは、このGM小麦の発覚直後の6月3日の声明で、日本、韓国、EUなどの輸入国に対して、このGM小麦の情報を提供した、と明らかにしていた。

 ●少ない検体 120万トンは“白”だが

 検査が終わった米国産小麦は、農水省の発表によれば、売却前の米国産小麦WW(ウエスタン・ホワイト)約1万トン(16検体)と、流通在庫のWWなど3銘柄120万トンである。流通在庫120万トンの検査数は、わずか58検体にすぎない。それも、残留農薬検査用に確保した検体を流用し、2万トンから4万トンに1検体の割合での検査である。検体は、一つのサイロにつき1検体。船の場合も、1隻に対して1検体でよいとしている。

 はたして、このような大雑把とも思える抜き取り検査で、GM小麦混入の有無が確認できるのだろうか。

 日本が米国から輸入する小麦約3百万トンのうち,菓子用のWW(ウエスタン・ホワイト)は約80万トンを占めている。このWWの輸入再開について農水省の発表では、「輸入前に遺伝子組換え小麦の混入の有無について検査する体制を確立した上で、再開」としている。

 ・農水省, 2013-7-5

 7月2日の記者会見で林農水大臣は、6月20日に米国農務省のヴィルザック長官からの書簡が届いていたことを明らかにした。ヴィルザック長官は、GM小麦が見つかったのは一つの農場だけであること、市場でのGM小麦の汚染が確認されないことなどを挙げ、入札参加再開を求めているとした。そのうえで林農水大臣は、輸入再開の条件として、米側の調査の範囲と全体の調査計画について更なる情報の公開と、GM小麦の検査方法の確立と消費者が納得する検査体制の整備を挙げている。しかし、「汚染ルートの解明」には触れていないことが注目点だ。

 日本農業新聞は農水省を「慎重な姿勢」と評価しているが、5日の発表を見る限りでは、USDAの安全宣言がなされれば、輸入再開も近いのではないか。

 ・農水省, 2013-7-2

 ●迷宮入りか? GM小麦の汚染ルート

 5月29日に明らかになったモンサントの除草剤耐性GM小麦は、たまたま、休耕中の圃場の雑草対策に散布したラウンドアップにも枯れない小麦を見つけた農家が、州の研究機関に持ち込んだことで発覚した。この圃場は、2011年秋に冬小麦を播き、2012年夏に収穫後、そのまましてあったという。

 一方、モンサントは直後の声明などで、98年から05年にかけて全米16州で試験栽培されたGM小麦MON71800は春小麦であり、冬小麦と交雑する可能性はないと否定している。また、交雑防止措置とともに、試験終了後の小麦は深さ6フィートの地中に埋めるか焼却し、圃場を2年間監視するなど厳格に管理しているととしている。オレゴン州では、99年から02年にかけて8件のGM小麦の試験栽培が行われているが、問題の圃場では試験栽培は行われていないことも明らかになっている。

 米国農務省(USDA)は、数10人規模の態勢で汚染ルートの解明にあたっていると報じられている。すでに問題のGM小麦が発見された農家と同じ種子を購入した農家200軒余りの聞き取り調査を終えたというものの、その結果は明らかにされていない。

 こうした汚染ルートが解明できない中、モンサントの責任者は6月5日、オレゴン州とワシントン州の60%に相当する3万サンプルを検査したがGM小麦は発見できなかったと報道に語った。そして、USDAから問題のサンプルの提供は受けておらず、モンサントは確認できていないとし、USDAの試験に問題があったのではないかと示唆している。さらには、一つの圃場だけに限定されていることを強調するとともに「意図的な混入」に言及し、GM反対派によるバイオテロの可能性を示唆した。

 ・Reuters, 2013-6-5

 モンサントは、なぜ、発覚直後の早い時期にバイオテロの可能性を示唆したのか。GM汚染の原因をバイオテロに押し付けて収束を図ろうとしているのではないか。もし「バイオテロ」と言うのであれば、GM小麦種子の入手方法も含めて、その方法や実行者を明らかにする義務がモンサントにはある。

 米国の報道の一部は、発覚当初より「ミステリー」と評していたが、USDAもモンサントも発表はほとんどなく、汚染ルートの解明はもとより、汚染の有無についても明らかになっていない。6月20日ごろを境に、ニュースとして報じられなくなっている。

 ●真相はどこに?

 今回のGM小麦の発見公表直後、日本の製粉業界の話として日本農業新聞は、「GM小麦への世間の注目を集め、GM解禁を進めたいという意図があるのかもしれない」と報じた。

 不思議なのは、問題のサンプルがモサントにわたっていないというモンサントの言明である。蜜月に違いないUSDAとモンサントとの関係からすれば、考えられないことだ。なぜ、モンサントは問題のサンプルを直接に検査しないのか。

 ましてや、モンサントがバイオテロの可能性に言及するとなると、なおさら、「GM小麦を推し進めるための意図」という製粉業界関係者の見方も一定の信憑性が出てくる。

 しかし、はたしてバイオテロが可能なのか。そもそも、GM反対派は、試験栽培で厳格に管理されていたとされるGM小麦の種子を入手できるのか。なぜ試験終了の8年後なのか。その点では、自作自演説の方が可能性は格段に高い。しかし、昨年10月のカリフォルニア州におけるGM表示義務化の住民投票後、全米各州に広がっている表示義務化の州法制定への動きの中で、あえて、“GM小麦の汚染”を演出するということは理解し難い。

 こうしてみたとき、GM汚染の原因として一番可能性があるのは、交雑が広がっているということではないか。あるいは、モンサントの強弁やUSDAの否定にもかかわらず、杜撰な試験栽培により、GM小麦の種子そのものが流出しているということではないのか。これまで、商業栽培されていないことで、どこも試験してこなかったから見つからなかったという可能性もある。ただ、交雑しないとされるGM小麦が春小麦であるのに、なぜ、冬小麦の圃場に出現したのか、という点が明らかになっていないが。

 いずれにせよ、汚染ルートの迷宮入りとともに、その後にはGM小麦への認知度アップだけが残ることは願い下げだ。