
フィリピンのIRRI(国際稲研究所)が中心となって商業化の道を探ってきた遺伝子組み換えの米であるゴールデンライスは、毎年のように「商業栽培間近」とアナウンスされてきた。 今年に入ってIRRI自身が、商業化にはさらに2年かかるかもしれないとする慎重な見方をそのサイトに掲載していたが、BBCは8月6日、ゴールデンライスの栽培承認申請が近いとする番組を放送した。
・IRRI, 2013-2-21 ・BBC, 2013-8-6●GMコメでビタミンを取る愚策
ゴールデンライスはコメにスイセンの遺伝子を組み込み、β−カロテンを産生するようにした遺伝子組み換えのコメである。コメの色がカロテンの黄色であるため、ゴールデンライスと呼ばれている。
開発当初、1日の必要なβ−カロテンをゴールデンライスから摂ろうとすると、1キロ以上食べなければならず、非現実的であると非難された。ビタミンAの不足による健康障害には、そもそも野菜などのおかずが満足に食べられない経済的な問題が大きく、ゴールデンライスは無意味だとする批判が大勢であった。依然としてこの批判は生きている。
BBCによれば、フィリピン政府が実施しているビタミンA強化の小麦粉や安い麺による対策が効果をあげている。2003年に全人口の40%がビタミンAが不足していたが、2008年には15%にまで減少している。IRRIですら、ゴールデンライスが、数ある対策の一つしかに過ぎないことを認めている。
多角的な取り組みが進展している状況で、遺伝子組み換え品種を持ち込む必然性は全くない。すでに従来育種によるβ−カロテンを強化した作物が実用化されている。ナイジェリアのβ−カロテンを75%強化したトウモロコシや、他にもβ−カロテン強化のサツマイモなども実用化されている。
●突破口としてのゴールデンライス
しかし、ゴールデンライスを開発したシンジェンタ社は、その特許使用権を、“非営利”と自称する Golenrice Project に供与し、IRRIとともに、商業栽培へ向けた活動を行ってきている。何としても商業化したいようだが、ゴールデンライスによる企業利益は得られないようにも見える。シンジェンタをして、なぜ商業化に固執するのかがキーだ。
ビタミンAの不足による年間3十万人が失明し、65万人が死亡するという現実に対する処方箋としてのゴールデンライスは、遺伝子組み換えであったとしても一般的な印象はさほど悪くない。コメが主食ではない欧米などでは、逆に歓迎されるかもしれない。そのような感情が、ゴールデンライスの商業栽培へのハードルを下げるだろう。
一度始ってしまえば、商業栽培を止めることは難しい。ゴールデンライスが、それ以降の遺伝子組み換え米の商業栽培に道を開くことは間違いないだろう。その後は、除草剤耐性や害虫抵抗性のGM米を親品種とする“ハイブリッド品種で稼ぐ”戦略は想像に難くない。
ゴールデンライスの商業栽培へIRRIなどは2011年、ゲイツ財団やヘレン・ケラー財団などから開発資金を得ている。そして、商業栽培に向けて、日本でいえば「コシヒカリ」のような銘柄品種にゴールデンライスの形質を導入しようとしている。それにより、農民の栽培へのハードルを下げ、広範な商業栽培を目論んでいる。すでに、ベトナムへもゴールデンライスが供与されている、と報じられている。アジアでの遺伝子組み換えのコメの商業栽培への目論見が進行中である。