生物多様性影響評価検討会総合検討会は2月3日、農業生物資源研究所の申請による遺伝子組み換えカイコの隔離飼養試験を承認した。このGMカイコは、オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を組み込み、緑色の蛍光色を発色させる絹糸を作ることを目的としたもの。農水省は昨年7月、遺伝子組み換えカイコにかかる第1種使用規定の承認申請手続きに関する通知を公表し、農業生物資源研究所は昨年7月22日付けで隔離飼養試験の申請を行っていた。
このGMカイコには、選抜用に眼が赤く蛍光色を発色するイソギンチャクモドキ類由来の赤色蛍光タンパク質遺伝子も組み込まれている。2つの傾向発色遺伝子は、大腸菌由来のプラスミドに組み込まれ、カイコの受精卵(胚)に顕微注入で挿入されるとしている。
同検討会昆虫部会は検討の結果、カイコの幼虫はほとんど移動できず、成虫もほとんど飛べないことから、自然環境下で繁殖することはできないと考えられるとした。同様に野生のクワコと交雑する可能性は極めて低いと考えられるとして、生物多様性に影響を与えないと結論付けた。申請書に飼養試験に使用する容器の写真(P.11)が、また同時に公表された「遺伝子組換えカイコの隔離飼育試験の実施について」には飼養試験場の建屋外観の写真が掲載されている。
この隔離飼養試験を申請した農業生物資源研究所は、この試験飼養によりデータを積み上げ、農家段階での遺伝子組換えカイコの飼育の可否を検討するとしている。同研究所はまた、カイコは小ロットで飼育でき、様々な用途に少量多品目なタンパク質を供給することが可能だとしている。
●「負のスパイラル」にある養蚕を
立て直す力になるのか?
この遺伝子組み換えカイコの開発は、2010年度の「新たな農林水産政策研究開発目的として、今回の蛍光色シルク以外に、高UV吸収シルク、超極細シルク、耐水性シルク、高強度シルクなどの高機能シルクを産生するカイコの品種の開発と、大量飼育・生産システムの確立と機能性を生かした製品開発を上げている。そして、これにより「新たなカイコ産業の創出と地域経済の発展に貢献」としている。
1930年代に約40万トンあった繭の生産量は、敗戦直後に急落したが1960年代には10万トンまで回復した。しかし、2011年にはわずか220トンにまで落ち込んでいる。こうした状況を国も、繭生産の激減が、生産農家の高齢化、製糸会社の減少(2006年には2工場)、価格の低落という「負のスパイラル」に落ち込んでいると分析している。養蚕農家の高齢化は、2006年には平均年齢が69歳に達していた。若い農家が養蚕に新規参入する素地はあるのだろうか。そして、GMカイコによる機能性シルクの生産に、こうした状況を劇的に変えうる力があるのだろうか。
・生物多様性影響評価検討会総合検討会 ・農業生物資源研究所, 2013-7-22 ・農林水産技術会議事務局/農業生物資源研究所 ・農水省, 2010 ・農水省, 2006-8●対応を迫られる遺伝子組み換え作物栽培規制条例
すでに、閉鎖施設内でのGMカイコによる医薬品原料などの生産が行われているが、今回の隔離飼養試験は、一般の農家などによる開放系でのGMカイコ飼育の前段階に当たり、将来的にこうしたGM動物が、開放系の施設や農家などで飼育される可能性がある。
2005年以降、北海道や新潟県などが遺伝子組み換え作物栽培規制条例を制定している。いずれの条例も、栽培には届け出を必要とする内容となっている。一部の条例では北海道のように、違反に対して罰則を設けているところもある。しかし、いずれもGM作物しか想定しておらず、農家などでのGM動物の飼育には対応できていない。隔離飼養とはいえGMカイコの飼育が始まった今、GMカイコが本格化する前の早急な対応が求められる。
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