1月9日に米国議会に提出された、米政府に貿易交渉の強い権限を与える貿易促進権限法案(TPA法)には、貿易障壁としてのGM表示とその排除が明記されている。一方、昨年から東京新聞などが報じているが、TPP交渉の中にあって、GM表示外しには触れないことで妥協が成立したともいわれている。昨年6月、産経新聞は「TPP交渉、米が遺伝子組み換え表示を容認 「食の安全」への懸念払拭」と報じ、7月にもNHKが「TPP食品安全基準緩和 議論対象とならず」と報じてもいた。
TPA法案の問題の条項は、(3)農業貿易の(I)-(ii)項である。ここには、「不当な米国の市場参入機会の制限や米国の農業市場をゆがめるような諸手続を撤廃するためのルールを設定、強化、明確にする」としている。そして、その中では「バイオ技術を含む新技術に影響を及ぼす、表示のような不当な貿易制限や商業上の要件を含む」としていて、「GM表示」の排除を条件としていることは明らかである。
113th Congress, 2013--2015. Text as of Jan 09, 2014 (Introduced).
米国議会上院の与党民主党の責任者であるリード院内総務が、このTPA法案に反対していて、その成立の先行きが不透明との報道もあるが、仮にTPA法案が成立した場合には、この条項に制約されて「GM表示」が浮上し、TPP交渉の新たな“壁”になるのではないか。TPP交渉参加国の中で、何らかの義務的なGM表示は、ペルー、ベトナム、インドネシア、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、日本の8カ国と多数である。
・Center for Food safty, 2013-52月7日の参院予算委員会において、紙智子議員(共産党)の「(GM表示が)TPP交渉で米国政府がこれを議題にするのは明らかではないか」との質問に、安倍首相は、「TPA法案は米国政府が求めていたものでだが、議案を出すのは日本と違って議員側が出すもので、政府とイコールではないといえる。TPA法案が出てきたのは米政府がTPPをしっかりと進めたいという意欲の表れではないか」と答弁した。安倍首相は、この「GM表示撤廃」には触れず、明確な現行のGM表示制度維持への言及を避けた。
「GM表示撤廃」がTPP交渉でなくとも、同時に開らかれている日米並行協議に持ち出され、日本政府がそれを容認する可能性は明らかではないが、安倍首相が明確にしなかった点は要注意だ。