食品安全委員会は2月24日、米国のシンプロット社のアクリルアミド産生低減・打撲黒斑低減GMジャガイモSPS-00E12-8の健康影響評価を始めた。このGMジャガイモは、高温での加熱処理の際に生成されるアクリルアミドを低減できるとするもので、同時に収穫時の打撃によって生ずる黒斑も少なくできるとしている。昨年、米国とカナダで承認申請が出されているが、まだ承認されてはいない模様だ。
●本来の遺伝子発現を抑制するジーンサイレンシング
これまでのGM作物の多くが、除草剤耐性や害虫抵抗性などの新たな形質を獲得に、大腸菌などに由来する異種生物の遺伝子を組み込むことで実現してきた。これに対して、このシンプロットのGMジャガイモは、栽培種のジャガイモと野生種のジャガイモの遺伝子だけを組み込んでいるとしている。組み込んだジャガイモの遺伝子によって本来の遺伝子の発現を抑制し、高温処理時に アクリルアミドを生成する原因物質を少なくすることができ、結 果としてアクリルアミドを低減できたという。
このGMジャガイモの遺伝子の発現を抑制するジーンサイレンシング技術は、まだ未解明の部分もあり、健康影響の可能性が否定できないとの指摘もある。シンプロット社のGMジャガイモは、2015年には市場に出てくると見られている。
アクリルアミドは1950年代より、工業用に水処理剤、土壌凝固剤、整髪剤などとして用いられてきたが、スウェーデンでの事故を契機として2002年、ヒトに対して発がん性が疑われる物質として脚光を浴びることになった。日本でも農水省が、加工食品中のアクリルアミドの低減にガイドラインを作成している。
●マクドナルドはフライドポテトに使うのか
米国のジャガイモの大手ユーザーであるマクドナルドは昨年末、このGMジャガイモの使用の是非について、取材を拒否しものの、同社の広報が、マクドナルドの決定は「食品と産業と規制専門家」によると述べた、とガーディアン紙が報じている。マクドナルドは以前、モンサントの害虫抵抗性・ウイルス抵抗性のニューリーフGMジャガイモを使用せず、モンサントはGMジャガイモから撤退している。
一方でゼネラル・ミルズは先ごろ、同社のチェリオスにGMを使わないと宣言し、NON−GM化に一歩踏み出している。昨年にはまた、マクドナルドに対して、このGMジャガイモの不使用を求める10万人余りの署名による申入れが行われている。同時に米国では、GM表示義務化への動きも急となっている。そんな中でマクドナルドは、このGMジャガイモをそのフライドポテトに使う決断を迫られていることは確かだ。しかし、使用を否定しなかったことは、使用の可能性が大きいとも見ることができる。
●外食産業でのGM表示も必要
日本でもこのシンプロット社のGMジャガイモの承認申請が出されたということは、米国で使用されることが前提とはいえ、日本でもフライドポテトの原材料として使用されることを見越してのものと思われる。もしマクドナルドのようなファーストフード店で使われた場合、外食産業での遺伝子組み換え表示の義務がないため、知らないうちに食べてしまう可能性がある。現行制度では、冷凍フライドポテトのような加工食品としてとして販売される場合には「遺伝子組み換え」の表示が必要となる。
先ごろ明らかになった外食産業での食品偽装の改善は言うまでもないが、レストランなどでの明確な産地表示、GM表示も必要である。米国カリフォルニア州のGM表示義務化を求める住民投票の運動は、GM表示を「知る権利」として位置づけた。同じように、何を食べるかを自身で決めることは「消費者の権利」だ。
◆表示が必要な加工食品:ばれいしょ(26) 乾燥ばれいしょ
(27) 冷凍ばれいしょ
(28) ばれいしょでん粉
・厚労省, 2014-2-19 ・Guardian, 2013-12-4 ・US Today, 2014-1-2
◆アクリルアミドに関する情報
・農水省 ・厚労省 ・農水省, 2013-11-27
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