日本がGM承認を急ぐ背景
昨年11月以来、中国は未承認GM品種の混入を理由として、89万トンの米国産トウモロコシの輸入を拒否している。これを受けて、栽培間近のシンジェンタの新品種について、米国のトウモロコシ生産者団体の栽培回避勧告や、穀物メジャーの取扱い拒否の動きが起きている。中国のトウモロコシ輸入量は450万トンと、日本の3分の1程度であるが、100万トン近い輸入拒否に、米国は輸出国として看過できない状況に直面し、右往左往している。
●中国の輸入拒否で右往左往する米国のGM栽培
シンジェンタは今年、新しい害虫抵抗性のGMトウモロコシ5307系統を“Duracade”という商品名でリリースを予定していた。この新品種は、米国、カナダ、日本などでは承認されているものの、中国やEUではまだ承認されていない。栽培された場合、中国が未承認として拒否したMIR162のような混入と輸入拒否が起きうる可能性がある。
穀物メジャーのカーギルは2月、中国の事態を受けて、この新品種5307系統の受け入れを拒否する声明を発表した。カーギルに続いて多くの穀物メジャーが、5307系統の取扱い拒否を明らかにした。これに対してシンジェンタは、全米3位の穀物メジャーであるガビロン(Gavilon)を受け入れ先として、5307系統のリリースを強行すると発表した。
この事態に全米穀物飼料協会(NGFA)と北米輸出穀物協会(NAEGA)はすぐさま、シンジェンタにリリースの中止を求めるとともに、農家に対して、リリースに備え注意するようにという共同声明を公表している。
・Reuters, 2014-2-14・NGFA, 2014-1-22
・Syngenta, 2014-2-20
●輸入諸国の承認が必要なGM作物栽培
輸入国での未承認の品種を栽培することは、中国が示したような「混入」による輸入拒否を招きかねないリスクを負うことでもある。世界的には、FAO(国連食糧農業機関)が3月13日に公表したように、発覚する輸入食品・飼料の遺伝子組み換え作物による“低レベルの汚染”が増加傾向にある。調査に回答した国の約7割が未承認GM作物に対する許容度がゼロだとしている一方で、約半数がGM検出能力がないとも回答している。今後、こうした国がGM検出能力を持ってくれば、未承認品種の混入や、GM品種の混入による輸入拒否が常態化してくる可能性も予想される。
未承認品種の混入による輸入拒否、積み戻しは、日本でも起きている。2005年から2006年にかけて、輸入された米国産トウモロコシの中から、未承認のGMトウモロコシBt10の混入が見つかり、4万2千トンが輸入拒否、積み戻しとなっている。
農水省は2003年、条件付きではあるが輸入飼料への未承認GM品種の混入を1%まで認める省令の改正を行っている。輸入を認める場合の条件は、「我が国と同等又はそれ以上の水準の安全性に関する審査の制度を有すると農林水産大臣が認める外国政府の審査により安全性が確認されている飼料」として、米国で承認されていれば実質的にフリーパスとなるようなものであった。この省令にもかかわらず、米国でも未承認であったBt10は、結局、全量積み戻し処分とされた。
2007年、日本やEUではまだ承認されていなかった、シンジェンタの害虫抵抗性GMトウモロコシMIR604の栽培が米国で強行された。米国の生産者団体や輸出業界からは、Bt10積み戻しの再現を恐れて懸念の声が上がった。この事態に日本の食品安全委員会は2007年8月、収穫を前にしてMIR604は「安全」とする評価を急いでまとめている。
商品作物であるトウモロコシのグローバル化した取引は、年間1億トンを超える規模にまで大きくなっている。米国では、栽培されるトウモロコシの9割がGM品種であり、約4千万トンが輸出され、輸入国の承認が必須条件となっている。1%まで未承認品種の混入容認しながら、GM新品種の承認作業を急ぐ日本政府の姿勢の裏には、こうした事情も大きく影響していると言えるだろう。確認はできないものの、商業栽培が始まる前に全ての関連する承認作業を完了させる、といった日米政府間の合意の存在すら疑わせる。そう思わせるような、ベルトコンベアに乗ったかのような承認作業が続いている。人々の健康よりも“円滑な貿易”が優先されているとしか思えない状況だ。
・農水省, 2003-4-1【関連記事】
◆日本における5307系統の承認状況
食品安全委員会 | 食品 | 2013-1-28 |
飼料 | 2013-2-4 | |
厚労省 | 食品 | 2013-2-16 |
農水省 | 生物多様性 | 2013-5-23 |
肥料 | 2013 |
●シンジェンタと組んだガビロンは丸紅子会社
シンジェンタと組んで、新品種5307系統の受け入れを公表した米国穀物メジャーのガビロン社は、大手商社の丸紅が2012年5月に買収した100%出資の子会社。丸紅が子会社化した際の公表資料によれば、ガビロンは全米に140以上の集荷拠点を持ち、保管能力はAMD、カーギルに次ぐ米国第3位の830万トン。丸紅自身の分も加えれば、カーギルを超えて全米第2位となる規模だ。北米以外でも、オーストラリア、ウクライナ、ブラジルなどでも集荷事業を行っているとしている。ここにも多国籍企業化した日本の商社の姿を見ることができる。
・丸紅, 2012-5-30- ネオニコ系国内出荷量 21年度3.8%増 第二世代は63%増
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