

米国農務省動植物検疫局(APHIS)は11月7日、シンプロット社の遺伝子組み換えジャガイモの栽培規制を撤廃したと発表した。ポテトチップ向けに開発された、このシンプロット社のGMジャガイモは、高温での加熱処理の際に生成されるアクリルアミドを低減し、同時に収穫時の打撃によって生ずる黒斑も少なくできるとしている。組み込んだ外部遺伝子により、本来の遺伝子の発言を抑制するRNA干渉という遺伝子サイレンシング技術により開発されたもの。
シンプロット社によれば、このGMジャガイモに組み込んだ遺伝子は、別の品種のジャガイモの遺伝子だという。そして、5つあるポリフェノール・オキシダーゼ遺伝子のうちの1つを沈黙させることにより、打撲による変色を低減できるという。また、加熱により生ずるアクリルアミドの原因となるアスパラギンの生成に関わる遺伝子も沈黙させ、今回承認された10品種でばらつきはあるもの、アクリルアミドを6割から7割低減できるとしている。(申請書・表8)
シンプロット社は、打撲による変色が原因により廃棄される、年間約20万トンのジャガイモを救うことができると見積もっている。同社はまた、2015年の市場試験に向けて栽培を準備していると発表した。
・USDA APHIS, 2014-11-7・J.R. Simplot
今回の規制撤廃について食品安全センターは7日、APHISは十分に影響を検討せず、決定を急ぎすぎたとする声明を出した。同センターは、RNA干渉技術の潜在的な危険性がはっきりしておらず、現在のリスク評価手順に問題があるとの、環境保護局(EPA)の独立した科学者委員会の結論を引いて、USDAがリスクを十分に検討せず、決定を急ぎすぎたと指摘した。
また、変色の低減はジャガイモ産業にとっては魅力的かもしれないが、変色による健康リスクはないと批判した。また最近の研究から、このGMジャガイモが低減させるとするアスパラギンに、植物の病害を減少させる効果があることから、殺菌剤などの農薬の使用量増加を招く可能性を指摘している。このGMジャガイモは、農家にとっても、消費者にとっても益がないと指摘した。
・Center for Food Safety, 2014-11-7シンプロットはまた、米国の外食大手のマクドナルドへの最大のジャガイモ供給企業とされている。米国の環境保護団体 Food and Water Watch は昨年11月、シンプロットのGMジャガイモを使用しないよう求める10万人の署名をマクドナルドに提出している。
・RT, 2014-11-8・Food and Water Watch, 2013-11-20
シンプロットのGMジャガイモは、米国食品医薬品局(FDA)の認可待ちの状態。日本では、今年2月にシンプロット社から食品と飼料についての承認申請が出され、現在食品安全委員会で審査中である。米国では異なるジャガイモ3品種をベースとした10種類の組み換えジャガイモが申請され、すべてについて規制撤廃が認められているが、日本にはE12という1種類のみが対象となっている。
3月14日に開催された食品安全委員会・遺伝子組換え食品等専門調査会の議事録によれば、このGMジャガイモは、「米国の特定のほ場で生産され、特定の工場でポテトチップス用に加工することを予定しており、種いもや生食用として日本に輸出する予定はない」とされている。
2005年2月、それまでジャガイモに害を及ぼす病害虫の浸入防止として輸入が禁止されていた米国産ジャガイモが、特定の工場でポテトチップ用に過熱処理されることなどを条件として輸入が認められた。シンプロットのGMジャガイモもこの特例を使うことを想定しているかのように見える。しかし、米国で粉末のような状態に加工、輸入され、外食産業でフライドポテトなどに加熱加工された場合、表示義務がないことから、消費者には知る術がない、という問題がある。
米国のGM表示義務化を求める住民投票運動は、GM表示を「知る権利」として位置づけている。同じように、何を食べるかを自身で決めることは「権利」であるはずだ。
日本の食品表示のお粗末さについて、岡田幹治氏の「日本は食品表示の「劣等生」!」(『週刊金曜日』1012号)に詳しい。「業界庁」と批判される業界寄りの消費者庁の姿勢から、外食産業での表示義務化は当分難しいようだ。
◆表示が必要な加工食品:ばれいしょ
(26) 乾燥ばれいしょ
(27) 冷凍ばれいしょ
(28) ばれいしょでん粉
・農水省
・食品安全委員会 遺伝子組換え食品等専門調査会

・『週刊金曜日』, 1012号 2014-10-17
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