
スギ花粉症を引き起こす抗原を全て、遺伝子組み換えで組み込んだ「スギ花粉症治療米」の臨床研究が、2月から慈恵医大で始まった、と日本経済新聞が報じた。マウスでは安全を確認しており、健康な人での安全性を確認した後、臨床試験(治験)に進めたいとしている。すでに、このGM米が狙うスギ花粉症減感作療法薬の販売が始まっており、GM米がどこまで許容されるか疑問だ。
記事によれば、改変したスギのアレルゲン遺伝子を組み込んだ花粉症緩和GM米を開発した生物資源研究所は、2013年12月から14年5月にかけて慈恵医大などと共同し、この花粉症緩和GM米の効果を確認したとしている。
GM花粉症緩和米の効果については、マウスに対する20日間の給餌試験の結果を高知医科大学の研究グループが発表している。GM花粉症緩和米はアレルギー性結膜炎で、アレルゲンに特有の口頭の免疫治療のために潜在的に安全かつ有効だとしている。しかしこの研究では、目の結膜に起きるアレルギー反応しか調べていない。長期に給餌した場合や、目以外の影響が調べられていないものだ。
・日本経済新聞, 2015-2-28・British Jounal of Ophthalmolory, 2015-1-6
このGM米は、パック詰めのご飯として販売するにはかさばるとして、有効成分を抽出した医薬品のカプセルとして製品化を目指すという。一方で、「有効成分を抽出する精製コストがいらない分、安くできる。農業の活性化にも役立つだろう」(高野誠 遺伝子組換え研究センター長)と、農家による田んぼでの栽培に対する期待も匂わせている。
2004年、神奈川県平塚市の全農試験場で計画された屋外試験栽培計画は、交雑を懸念する農家や消費者の反対で頓挫している。過去には、交雑懸念から離島での栽培が取りざたされているなど、栽培には問題が多い。いまだに根絶できない中国のGM米汚染の例は、一度起きたGM汚染の根絶が容易くないことを示している。現実的に、一派の田んぼで栽培できる代物ではない。「農業の活性化にも役立つ」とは到底思われないし、普通の米のように田んぼで栽培できないだろう。
GMスギ花粉症緩和米・治療米の実用化は、農業生物資源研究所の“悲願”かもしれない。当初は特定保健用食品(トクホ)扱いで商業栽培を目論んでいた。2007年、厚労省が「医薬品」としたため、医薬品としての治験が必要となった。2020年実用化が目標とされるが、屋外栽培や「ご飯」といった形での実用化は“悲願”で終わることは確実だろう。すでに昨年10月には、スギ花粉症の減感作療法(アレルゲン免疫療法)薬が実用化され、舌下液の販売が始まっている。
・鳥居薬品株式会社, 2014-9-2北海道が2014年に実施した遺伝子組み換え作物などに関する道民意識調査の結果では、GM作物やGM食品に対して「不安」に思う人が約8割を占めているのが実情だ。こうしたGM食品への懸念が強い中で、いくら「薬」だといっても、どれだけ許容されるか疑問だ。
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