崩れる「安全」の根拠
フランスの民間研究グループCRIIGEN(クリージェン)は6月17日、遺伝子換え作物や化学物質の安全性試験に用いられるラットの飼料を分析した結果、そのほとんどが農薬やGM成分で汚染されている、とするカーン大学のセラリーニ教授らの新しい研究の概要を公表した。こうした汚染された飼料による試験では正しい結果を得ることができないと指摘している。近くPLOS ONEに発表されるという。
クリージェンの発表によれば、一般的に用いられるラットの飼料は、バランスがとれ衛生的であるとみなされているが、広範囲に異常がみられたという。グループは、一般的に用いられるラットの飼料13サンプルについて、262種類の農薬、4種類の重金属、17種類のダイオキシン類、18種類のPCB、22種類のGMOについてその痕跡を調査した。その結果、13サンプル中9サンプルでラウンドアップが、11サンプルでGMO成分が検出されたとしている。このうちのいくつかは、ラットのホルモンや神経系を混乱させ、深刻な疾病をもたらす可能性のある濃度に汚染されていたとしている。こうした飼料を与えた場合、本来の試験対象の問題を隠すものだ、と指摘している。
また、これらのサンプルの1つは、デュポンのラウンドアップ耐性ナタネの承認試験に使用されたことが分かっているという。対照群に与えられる飼料が、すでにかなりの濃度のラウンドアップに汚染されていては、その試験には明らかに不備がある、と指摘している。
・CRIIGEN, 2015-6-17● 根底には現行制度の構造的欠陥
この研究結果は、遺伝子組み換え作物や農薬の安全性試験の比較対照群には、汚染のない清浄な資料が与えられているはず、という大前提が根底から崩れていることを示している。どちらの飼料も汚染されていれば、同じような結果となるのは当然のこと。こうした汚染飼料を与えられたラットによる安全性試験を根拠に「安全」とされては、消費者から見れば詐欺にあったようなものだ。そもそも、承認を申請する企業が行う試験結果だけでよく、規制機関が自ら長期試験を実施しないで済むような現行の制度に 大きな欠陥があるということだ。少なくとも、企業秘密を理由に非公開の試験データについて、容易にアクセス可能な全面的公開が必要だ。
● またもやSMCが否定的見解
この結果に対して、サイエンス・メディア・センター(SMC)は早速、「興味深いもの」、「これらの飼料が幅広く与えられている事実は驚くことではない」、「残留化合物の濃度が規制値を下回っていると分かったことは安心できる」などの、セラリー教授らの試験そのものに疑問視する指摘を否定するかのような専門家の見解を明らかにした。
SMCが、こうした安全性に疑問を投げかける研究を論ったり、結果に対して否定的見解を明らかにすることは驚くことではない。2012年9月、セラリーニ教授らがラウンドアップ耐性遺伝子組み換え大豆を使った2年間の長期給餌試験の結果、多くのラットに腫瘍ができたとする研究を発表した。その直後からSMCは、モンサントをはじめとするGM作物推進側とともに、セラリーニ教授らの研究結果を否定する見解を流していた。SMCの「専門家」の見解は、その立場と政治性を考慮する必要がある。
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