

農水省は7月7日、2013年度から3年間にわたった「蜜蜂被害事例調査」の結果を公表した。蜜蜂が大量に失踪する「蜂群崩壊症候群」(CCD)は確認されなかったが、ミツバチが減少する被害の多くが田んぼの近くの巣箱であり、被害は斑点米カメムシ防除の殺虫剤を散布する8月上旬、中旬に多かったとした。また、死んだミツバチからは、いずれの年においてもネオニコ系などの農薬を検出したとしている。報告書はまた、ミツバチ減少の要因とされるダニや蜂病の発生は8割以上で確認できなかったしている。
報告書では、斑点米カメムシ防除の農薬散布時期に死んだミツバチから、ミツバチの半数致死量の10分の1以上の量を検出したケースが約7割に達したと明記している。3年間で検出されたネオニコ系農薬は、イミダクロプリド(商品名:アドマイヤーなど)、クロチアニジン(商品名:ダントツなど)、ジノテフラン(商品名:スタークル、アルバリンなど)、チアメトキサム(商品名:クルーザーなど)の4種類だったという。
報告書はまた、巣箱あたりの被害数の分布も示しているが、2千匹以下の小規模被害の件数は減少しているものの、1万匹以上の大規模被害は変わっていない。また、北海道での被害は減っていないとしている。農水省の推奨する「情報共有」や「巣箱移動」が、必ずしもミツバチ被害の改善につながっていないことを示している。
報告書の結果からは、ミツバチ減少の主要な原因が、田んぼに散布される殺虫剤であることを示していて、報告書も斑点米カメムシ防除の農薬が主因であることを認めている。 その上で、農水省によるミツバチ被害対策は、農薬散布の予想される近くに巣箱を置かないことなど、規制力のない小手先の対策に留まっているにすぎない。端から農薬の規制強化には踏み出そうという姿勢はみられない。
◆農水省の呼びかけている対策
・農薬使用者と養蜂家の間の情報共有
・巣箱の設置場所の工夫・退避
・農薬の使用の工夫(粒剤の使用等)
● 斑点米カメムシ防除の見直しとネオニコ規制が必要
主因の斑点米カメムシ防除を目的とした農薬散布は、有効ではないと指摘されている。各都道府県単位に発令される病害虫発生予察情報に基づいて農薬散布が奨励されるが、この予察情報の確度が低いこと、散布時期のズレ、発生予測面積を大幅に上回る散布などの問題が指摘されている。
2000年、斑点米カメムシは指定有害動植物に指定された。この指定をめぐって反農薬東京グループなどが、被害を裏付ける資料の開示を求めてきたが、「見つからない」という回答しかない。そもそも指定自体に問題があったということに他ならないだろう。
農水省は小手先の対策に汲々とするのではなく、斑点米カメムシの指定有害動植物の指定解除とともに、早急にネオニコ系などの農薬の規制強化に踏み出すことが求められる。
・農水省, 2016-7-7農水省はこの報告書で、ミツバチ被害は全国の巣箱約40万個のうち0.7〜0.8%に留まっていてるとしている。一方、農業環境技術研究所が今年2月に公表した受粉媒介生物の経済価値分析によれば、セイヨウミツバチの露地作物への効果額は約5%にすぎない。野生の受粉媒介動物による効果額は3330億円に上り、全体の7割を占めているという。「巣箱移動」や「情報共有」のできない野生の受粉媒介動物が、より多くの被害を受けている可能性を示唆している。
・農業環境技術研究所, 2016-2-4日本の農薬行政は、欧米の規制強化とは逆に、規制緩和に動いている。農水省は昨年12月、新たなネオニコ系農薬のフルピラジフロンを農薬登録し、厚労省は今年6月、タマネギの輸入を目的とするチアメトキサムの残留基準値を緩和した。今後もこうした緩和の動きは止まりそうもない。他のネオニコ系農薬の残留基準値の緩和も行われそうだ。残留基準の適用拡大と緩和は、農薬使用を増やすことになり、ミツバチや他の野生受粉媒介動物への被害につながる。農薬に依存するだけでなく、いろいろな方策を講じて病害虫防除を行おうとする総合的病害虫管理(IPM)を推進しようとしている農水省の姿勢は矛盾が多い。
- イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム
EU:13年12月より一時使用禁止
米国:15年4月より新規登録を中止 - ジノテフラン
EU:未登録(使用禁止)
米国:15年4月より新規登録を中止
- ネオニコ系国内出荷量 21年度3.8%増 第二世代は63%増
- 有機農業は排外主義に与しない 参政党に反対する農民と市民が声明
- 冊子『スルホキサフロル 新しいネオニコチノイド系農薬』刊行のお知らせ
- ネオニコ系イミダクロプリド 自閉スペクトラム症様の視知覚障害を引き起こす
- 厚労省:グリホサートの残留基準値を大幅緩和を告示
- メキシコ GMトウモロコシ栽培を禁止 24年までに輸入も段階的に禁止
- 東アジアは農薬のホットスポット 日本はトップ5
- 農薬再評価 ネオニコとグリホサートなど優先14品目を告示
- 米国産ジャガイモ 輸入規制緩和 ポストハーベストも認める
- 輸入小麦の残留グリホサート 豪州産の検出率急増