有機関連業界にも亀裂 日本への波及も
7月1日より始まった米国バーモント州のGMO食品表示法を実質的に骨抜きにするGMO表示法案(農業マーケティング法改正案)は7月14日、米国下院において賛成306、反対117で可決された。オバマ大統領は署名し、成立する見込みだという。米国上院は7月7日、この法案を63対30で可決していた。
法案は、法律施行より遅くとも2年以内に、農務長官が表示基準を策定するように定めている。このため、モンサントなどのGM企業や大手食品企業に有利な内容になるのではないかと懸念されている。
法案ではまた、遺伝子組み換え成分を含むか否かに関し、文言やシンボル、スマートフォンで読み取れる電子コードによる表示が必要となる。電子コードは、成分表記のウェブページを示すQRコード(二次元バーコード)が想定されているという。このため、スマートフォンやパソコンなどを持たない、米国市民の3分の1にあたる1億人が表示の確認ができなくなることが懸念されている。
この法案可決を受けて、ジェシー・ジャクソン牧師はオバマ大統領へ書簡を送り、署名を拒否し議会へ差し戻すように要請したという。ジャクソン牧師は書簡の中で、QRコードを容認した法案は、貧困層への差別性を含んでいると指摘している。
多くの市民団体や消費者団体は、単純な文言による表示以外にもQRコードなども容認するこの法案に反対していた。明示しなくてもよいことから「GMO非表示法」だという批判も出ているほどだ。
この法案は、すでに7月1日より施行されたバーモント州や、同様のGMO食品表示の州法を成立させたコネチカット州やメイン州、アラスカ州のGMO表示制度を骨抜きにするもので、これらの州の主権の著しい侵害であると非難されているという。
・Reuters, 2016-7-14 ・AP, 2016-7-14 ・Center for Food Safty, 2016-7-14
● 有機農業へも波及
有機種苗生産者協会は有機取引協会を脱退
このGMO表示を骨抜きにする法案への賛否を巡って、米国の有機農業関連団体にも亀裂が起きている。全米の有機農業・オーガニック関連の生産者団体、流通業者、認証団体など8500事業者が加盟する有機取引協会(OTA)から、有機種苗生産者協会(OSGATA)が脱退した。
法案には、米国の有機認証制度で認証された製品について、“not bioengineered”とか“non-GMO”あるいは同様の文言で強調表示できるという一項が設けてある。この点を評価した有機取引協会は6月23日、法案を提案したスタベノウ上院議員(民主党)を「称賛する」とするコメントを明らかにしていた。
下院でGMO表示法案が可決された7月13日、このような有機取引協会の対応について有機種苗生産者協会は、GMO食品への表示を求める米国の市民と有機農家に対する「裏切り」であると断罪した。その上で、有機取引協会からの脱退を決めた。有機種苗生産者協会(OSGATA)は2011年、モンサントを相手に「モンサントは有機農家を訴えることはできない」ことの確認を求める訴訟を起こしている。
有機取引協会のトップのメリッサ・ヒューズは、米国最大の有機酪農協同組合であるオーガニック・バレーから選出されている。
・Organic Trade Association, 2016-6-23 ・Organic Seed Growers and Trade Association, 2016-7-13● 「対岸の火事」ではない食品情報の隠蔽
遺伝子組み換え食品に限ってとはいえ、この食品表示の方法は、「情報弱者」といわれる人びとへの配慮がないという前に、明らかにすべき情報を隠そうという意図が透けて見え、反消費者の立場を鮮明にしているといえる。こうした食品表示情報の隠蔽は、決して米国特有のことではなく、日本の消費者委員会での食品表示をめぐる議論の中でも出てきている。「技術革新」であるとか「情報化社会」といった美名によって、明示すべき情報を隠されてはかなわない。
米国農務省による表示基準がどのようなもになるかはまだはっきりしない。しかし、その内容がどうであれ、ただでさえ不十分な日本の遺伝子組み換え食品表示制度への波及は無視できないだろう。TPP協定では遺伝子組み換え作物に関し情報交換のための作業部会の設置が決まったと伝えられている。こうした場や、日米2国間協議の場において、米国の表示を認めるように要求してくることは想像に難くない。表示基準の策定は遅くとも2年と期限を切られている。少なくとも、米国農務省による表示基準への注視が必要だ。
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