米国と欧州の消費者団体で構成するトランスアトランティック消費者ダイアログ(TACD)は9月7日、ゲノム編集技術など、従来の遺伝子組み換え技術と異なる新たな育種技術(NBT)について、EUと米国に対して、遺伝子組み換え技術と同様に規制と表示を求める要請書を公表した。ゲノム編集などの新しい育種技術に対する消費者の懸念を考えれば、至極当然な要求といえる。
企業は、NBTを規制しないよう求めてロビー活動を展開している。しかし消費者には、新育種技術による食品がいかなるものであるかを知る権利があるとTACDは主張している。そして、EUと米国政府に、次の7項目を要請している。
- NBTを遺伝子組み換えとして規制すること
- 潜在的なリスクのあるNBTによる食品について、市販される前の義務的な健康影響評価を行うために規制機関を強化すること
- 販売前の環境影響評価と、販売後の強力な監視システムの展開
- NBTによる動物の改変に対する動物福祉への全面的な考慮
- NBTによる全ての食品に対する義務的表示の実施
- NBTによる生物をリリースする企業に対する、企業責任と義務的な保険の厳格な規則の実施
- 遺伝子組み換えでない食品の利用を確実にするシステムの確立と維持
この要請の7項目に注目したい。現在進行中の農薬・種子業界の合併と買収による寡占化が進むほどに、「何を食べるか/何を食べないか」という選択の幅が狭くなってくることは明らかである。そうした中で、遺伝子組み換えでないものを食べるという選択の保証を求めることは、とても重要なことだ。
TACDの食品政策委員会共同議長のスティーブ・スパン氏は、要請にかかる発表で、「EU委員会がNBT規制について、米国の規制に従うよう求める米国の圧力に強く反対する。米国は、現在のGM作物の失敗に学び、初めから消費者の声を聞き、規制と表示を行わなければならない。EUは、NBTとゲノム編集に由来する全ての製品に、今ある遺伝子組み換え規制法を適用しなくてはならない」と述べている。
・Transatlantic Consumer Dialogue (TACD) , 2016-9-7 ・TACD, 2016-9-7● ゲノム編集による新しい「作物」が登場
欧米では、ゲノム編集による作物が規制対象の遺伝子組み換えではないとして市場にでてこようとしている。知らないうちに商品化されているかもしれない。
米国農務省は今年4月、ペンシルバニア州立大学の研究者が開発した切り口が褐色になりにくいマッシュルームについて、規制の対象外とする見解を明らかにしている。同大の開発者の問合わせに回答したもの。このマッシュルームは、ゲノム編集技術の一つCRISPR-Cas9によって、1つの遺伝子を働かないようにしたものだという。米国農務省は、このマッシュルームが外来来遺伝子を挿入していないことを規制対象外の理由としている。
・USDA/APHIS, 2016-4-14CRISPR-Cas9とは別のゲノム編集技術を使い米国のサイバス社は、すでに米国で除草剤耐性ナタネの承認を得ているという。サイバス社は、自社のゲノム編集技術RTDSは遺伝子組み換え技術ではなく、自然界で起こる突然変異と同じものだとしている。サイバス社はまた、RTDS技術を使った除草剤耐性ナタネがすでに米国で栽培可能であり、17年にはカナダで、18年以降世界中で栽培可能となるとしている。ほかにグリホサート耐性亜麻、除草剤耐性コメ、葉枯れ病耐性ジャガイモを開発しているという。
サイバス社のゲノム編集技術に対して、ドイツのNGO、テストバイオテックなどは、遺伝子組み換えだとしている。テストバイオテックは昨年11月、ドイツ連邦消費者保護・食品安全局(BVL)とサイバス社が秘密交渉により、RTDS技術による除草剤耐性ナタネを遺伝子組み換え規制の対象外とすることで合意した、と暴露した。サイバス社の除草剤耐性ナタネは、すでにスウェーデンと英国で試験栽培されているという。
・Testbiotech, 2015-11-3【関連記事】
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