
英国レディング大学などの研究チームはこのほど、農業部門の14億人の雇用と全農作物の4分の3が、ハチなどの受粉を媒介する動物(送粉者、ポリネーター)に依存しているとする研究結果を発表した。ハチやチョウなどの送粉者の減少に歯止めがかからないと、食料確保と雇用が危機的な状況に直面すると警告している。論文は11月28日付のネーチャー(電子版)に掲載された。
この研究に関する英国・レディング大学のプレス・リリースによれば、送粉者による受粉が、大半の果実類、種子、木の実やコーヒー、菜種などを含む重要な農作物の約4分の3に直接的な影響を及ぼしているとしているという。関連する世界の農業部門の雇用は、貧しい途上国を中心に14億人に上り、送粉者の減少に対策を打たない場合、食糧確保ばかりか農業部門の雇用にも影響を及ぼすと警告している。また、送粉者による農作物への寄与は、年間2350億〜5770億ドル(約26兆〜65兆円)に及ぶという。
研究チームは、送粉者の多くが昆虫であり、ミツバチのCCD(蜂群崩壊症候群)による減少ばかりか、他のハチやチョウも減少していると指摘している。その原因は、生息環境の喪失、農薬、遺伝子組み換え作物、病害虫、気候変動が関係しているとしているという。
- 農薬に依存した病害虫管理から天敵などを利用した総合的な管理への移行
- 単一作物栽培(モノカルチャー)をやめ、多様な作物栽培への移行
- ハチなど送粉者の移動を容易にする「ミツバチ・ハイウェー」の確保
遺伝子組み換え作物栽培に象徴されるような、農薬を多用する単一作物栽培(モノカルチャー)から脱却し、工業的な農業から、自然との親和性の良い、多様な作物を複合的に栽培する農業への移行がが求められている。それが有機農業であったとしても、モノカルチャーのようでは意味がないということでもある。
昆虫などの受粉媒介動物による経済効果については、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間プラットフォーム(IPBES)が今年2月、ミツバチなどの花粉媒介動物による世界的な経済的価値は2350億ドルから5770億ドルとする報告書を発表している。今回の研究論文は、この報告書を踏まえたもののようだ。
日本における受粉媒介動物による経済効果については、今年2月、農業環境技術研究所が分析結果を公表している。その分析によれば、経済効は約4700億円で、その7割が野生種に依存しているとしている。
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