持続可能な調達目標を公表
日本の有機農業は面積でもわずか0.6%(農水省推計)と少なく、消費者が、容易に有機農産物を購入できる環境にはない。スーパーなどの多くは、ほとんど取り扱っていないか、あってもごく小さなコーナーのような扱いが現状だ。こうした状況の中、スーパー大手のイオンは、有機農産物の取扱いを5%にまで増やすこと目標とするなどを明確にした、2020年までに達成する調達目標「イオン持続可能な調達方針」を発表した。
イオンは4月19日、意欲的な数値目標を明示した、2020年までの達成目標「持続可能な調達2020年目標」を公表した。数値を示して表明したことは一定評価できる。中でも「有機農産物売上を販売農産物の5%をめざす」は、欧米のオーガニック・ブームとは異なり、目立って有機農産物が増えていない感のある日本ではインパクトがある。また、持続可能な方法で漁獲・養殖された水産物に対するMSC認証(天然魚)、ASC認証(養殖)を100%取得するという方針も意欲的なものと評価できる。
- オーガニック農産物売上構成比5%をめざす
- イオン連結対象の総合スーパー、スーパーマーケットで、MSC、ASCの流通・加工認証の100%取得をめざす
- 主要な全魚種で、持続可能な裏付けのあるプライベートブランドを提供する
・イオン, 2017-4-19
イオンが示した「5%」という数値目標は、具体的な金額ベースを明らかにしていないので詳細は不明ではあるが、イオンの売上高からすれば数十億円規模に、場合によっては100億円を超える可能性もある。しかし、国内有機農産物の供給余力が、イオンの増やそうとしている需要を満足するほどあるとも思われず、また急速な拡大も不可能と思われる。短期的には、海外有機農産物の輸入拡大や、国産生鮮有機農産物の「取り合い」、一部の生協や自然食品店への供給量の減少に向かうことも予想される。こうしたことで、国内有機農産物の小売価格がアップする懸念が残る。
イオンは、関連会社のイオンアグリ創造の農場で有機認証の取得を進めているという。今年2月からは、自社農場生産した有機農産物の販売を始めると報じられている。しかし、有機認証の取得も簡単にはできず、店頭に並ぶ自社農産物も極々一部に留まると思われる。契約有機農家からの供給も早急な拡大は望めないのではないか。
・日経, 2017-1-29イオンアグリ創造の南埜幸信氏は昨年、ある有機農業関連のセミナーで「これからはCSAの時代だ」と述べた。「CSA」といえば「コミュニティ(Community)が支える農業」として浸透してきている。しかし、南埜氏のいう「CSA」の「C]は、コミュニティ(Community)「C]でも、消費者(Consumer)の「C]でもなく、企業(Company)の「C」なのだという。「企業が支える農業」ということである。イオンアグリ創造は、イオンの販売網を活用して積極的に有機農業者を支援すると、南埜氏はその意気込みを語っている。
イオンの有機拡大の方針や、南埜氏が言うところのCSA=「企業が支える農業」が、これまでに築かれてきた既存の有機生産者と生協や自然商品店との関係を壊すようでは、単なるパイの奪い合いで終わるだけだ。そうではなく、新たな有機生産者の開拓に向かい、有機農業の裾野の拡大につながることが必要だ。
こうしたイオンのような大手が有機農産物の販売拡大の方針が、日本の有機農業の拡大に有効に作用するのか。本来の多様性のある有機農業の拡大には作用せず、大規模圃場で同じ作物しか栽培しない工業的な「モノカルチャー有機農業」に進むことへの懸念が残る。そうだとしても、小売大手が有機農産物拡大の方針を示したことは、評価できる。
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