残留基準値を決める厚労省は「科学的」か?
「ミツバチと子どもをまもる実行委員会」は5月19日、新しいネオニコチノイド系農薬スルホキサフロルを登録しないよう求める署名を厚労省へ提出し要請を行った。署名は、3月1日から2か月半で7818筆が集まったという。対応した厚労省残留農薬等基準審査室は、残留基準値は科学的に決められており問題ないとした。
ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議、日本有機農業研究会、反農薬東京グループ、グリーンピース・ジャパンの4団体で構成する「ミツバチと子どもをまもる実行委員会」は、スルホキサフロルを登録しないよう、次の4項目をあげて署名を募っていた。
- 農薬の安全性がきちんと確認されていません。発達神経毒性や環境ホルモン作用、複合影響について充分確認されていません。
- アメリカでは養蜂家協会からの強い反対を受け、一度使用が禁止され、その後用途が減らされた農薬なのに、日本では広い用途のまま申請が進められています。
- 今の残留基準がきまったら、日本でネオニコチノイド系農薬とミツバチ被害の関連が確認された稲作にも使用されることになってしまいます。
- 花粉を運ぶ野生の昆虫など生態系への影響がまったく考慮されていません。
署名の提出に当たってグリーンピース・ジャパンの関根さんは、「スルホキサフロルは、ミツバチに毒性が強いことからアメリカでも使用が制限された農薬。発達段階にある子どもにも悪影響を及ぼす可能性があります。パブリックコメントや署名に集まった声を政府は真摯に受け止め、スルホキサフロルの登録プロセスを直ちに中止するべきです」としている。
厚労省の「科学的」は疑問だ
厚労省への要請の中で、厚労省のいう「科学的」の中身が科学的でないことも明らかになってきた。厚労省は、@農水省の決めた使用法により作物残留試験を実施し、この試験結果を元に厚労省で、A残留基準値案を作成、B曝露評価によりADI(一日摂取許容量)の80%以下であることを確認、と残留基準値を設定する手順を説明している。
しかしながら、Aの残留基準値案の作成のやり方に明文化した手順書やマニュアルはなく、担当者間の「口伝」によって、その案作成のやり方を伝えているという。この段階で、ミスや恣意的な設定がなされないという最低限の歯止めがないということになる。
また、残留基準値案の作成にあたっては、国際的に標準とされる「OECDカルキュレーター」では最低8例を要求している。しかし厚労省は、試験例を増やす努力はしているというが、最低2例の試験結果があればよいという。たった2例の試験結果で統計処理が可能なものなのか、はなはだ疑問だ。2例で不足であれば、申請する農薬企業に追加のデータを求めればよいだけのことであるにもかかわらず、このようなやり方がまかり通っているのは疑問だ。
厚労省は、添加物と残留農薬が消費者の2大不安だと認識しているという。その不安の原因は、厚労省が「科学的」に決めたとしても、消費者とのコミュニケーションが不足だという。しかし、それ以前に厚労省の「科学的」の中身が検証され、改められるべきだ。消費者の不安は正しい。
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