94%の飼養ミツバチが拡散した農薬に曝される
米国・パデュー大学の研究チームはこのほど、トウモロコシのネオニコチノイド系殺虫剤の種子コーティングにより、トウモロコシ圃場から100メートルの区域がネオニコチノイド系殺虫剤によって汚染され、インディアナ州のミツバチの94%が危険に曝されているとする研究結果を発表した。研究では、種子処理の有無による収穫量の差はなかったともしている。米国環境保護庁は2014年、大豆の種子処理による経済的な利益はほとんどないという研究結果を発表しているが、トウモロコシでも経済的な効果がなかったことが明らかになった。
クロチアニジンやチアメトキサムなどのネオニコチノイド系殺虫剤でコートされたトウモロコシの種子は、播種機の中で団子になるのを防ぐためグラファイト粉などが添加され、播種機からネオニコチノイドを含んだ粉末が排出される。圃場の端から100メートル以上に、この粉末が拡散していることが分かったという。
研究チームのクリスチャン・クルプケ教授は2012年、排出された殺虫剤が圃場境界の花や、圃場周辺のミツバチの巣に存在することを明らかにしている。こうした巣のミツバチは殺虫剤中毒の徴候を示し、死んだミツバチはトウモロコシや大豆の種子処理剤のネオニコチノイドに対して陽性であったという。2年間、インディアナ州の12か所で調べた今回の研究では、ドリフトの測定機は、圃場の端から最大100メートルに置かれていたため、影響は少なくとも100メートルにまで及んでいることが分かったとしている。
この結果、トウモロコシ圃場の位置から、トウモロコシの栽培期間中、同州の42%の地域がネオニコチノイド系農薬に曝されているとしている。同州のミツバチの巣の位置と汚染地域と、ミツバチの移動の関係から、飼養ミツバチの94%がネオニコチノイド系農薬に曝されているとも推定している。この研究はトウモロコシ圃場に限定して行われたもので、大豆栽培での使用も考慮すると、影響はさらに広がる可能性があるとしている。
また、ネオニコチノイド系農薬のドリフトが、圃場だけでなくその周辺や水路を汚染する可能性があるという。害虫の発生に応じた農薬の使用により被害を減少させる可能性があるとしている。
研究では、種子コーティングが有無で収穫量に差がなかったとしている。しかし米国では、種子処理を行っていない種子がほとんど入手できない状況だという。
・Jounal of Applied Ecology, 2017-5-22 ・Purdue University, 2017-5-22米国では、大量のミツバチが死んだり消え失せるCCD(蜂群崩壊症候群)が大きな問題となっている。この数年、毎年40%以上のミツバチの巣が失われている。
・Bee Informed Partnership, 2016-5-4CCDはネオニコチノイド系農薬がその主要な原因とも指摘されているが、ネオニコチノイド系農薬の使用量は、CCDが問題となる数年前の2004年ごろから急激に増加している。主に遺伝子組み換えのトウモロコシや大豆の種子処理剤としての使用が増えたことによるとみられている。米国地質調査所(USGS)は、2014年のクロチアニジンとチアメトキサムの使用量は約2100トンと推定している。
日本におけるクロチアニジンとチアメトキサムの出荷量について国立環境研究所は、2014年に約130トンと推定している。
除草剤グリホサート耐性遺伝子組み換え作物栽培に伴い、モンサントの除草剤ラウンドアップの使用がスーパー雑草を生み、オオカバマダラなどの生息域を減少させるなどの環境影響が指摘されていた。今回の研究は、ネオニコチノイド系農薬の使用が、かなり広い周辺区域をも汚染していることを示し、水系汚染の可能性も明らかにした。
日本では水稲への使用が問題となっているが、水系汚染による生態系への影響はミツバチの影に隠れている。今後、問題が顕在化してくるかも知れない。
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