最終更新日:2017年6月3日
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2017.06.03 No.817
■予期せぬ突然変異を引き起こすゲノム編集
 目的外の数百の遺伝子に変異
Cas9_5AXW_s.png
CRISOR-associated protein Cas9 / Thomas Splettstoesser / Wikimedia

 狙ったところだけを確実に遺伝子操作できるかのように喧伝されているCRISPR-Cas9技術だが、予想外の大規模な変異を引き起こしていることが明らかになった。米国コロンビア大学などの研究チームはこのほど、遺伝子操作をを格段に改善するといわれているゲノム編集技術CRISPR-Cas9が、生体内で予期せぬ数百の突然変異を引き起こししている、とする研究をネーチャー・メソッドに発表した。これまでコンピュータ・シミュレーションで予想された箇所以外で変異が起きていたという。

 コロンビア大学医療センターの発表によれば、マウスの失明に関わる遺伝子をCRISPR-Cas9で操作し、うまくできたと考えた。しかし、1500以上のヌクレオチドの変異と、100以上のより大規模なゲノムの削除と挿入が起きていたことが分かったという。この変異は、コンピュータによる予測では見つからないものだったとしている。この結果に研究チームは、全てのゲノムを比較して予期せぬ変異が起きていないかを確認する必要があるという。

 ・Nature Methods, 2017-5-30  ・Columbia University Medical Center, 2017-5-30  ・Phys, 2017-5-29

 ゲノム編集に関してはこれまでにも、目標とする遺伝子以外の変異(オフターゲット)がきちんと調べられていないのではないか、と指摘されてきた。この研究結果は、万能感が喧伝されるゲノム編集が、必ずしも狙った箇所だけを操作・改変しているわけではないことを示している。少なくとも、ゲノム編集の前後の全てのゲノム配列を示してチェックすることと、変異部分に問題がないことを示すことが必要だろう。

予防原則に立った規制枠組みが先決

 ゲノム編集による遺伝子改変作物や動物への規制について、まだ国際的なコンセンサスの一致はみていない。しかし、米国はすでに、ゲノム編集による非褐変マッシュルームについて規制を受けないとの見解を示している。

 その一方で、全米有機認証基準委員会(National Organic Standards Board)は昨年11月、ゲノム編集技術などの新育種技術による遺伝子操作由来の成分について、従来の遺伝子組み換えと同じように有機食品としては認めないとする勧告を満場一致で決議している。

 EUはその方針を明確にしていないが、欧州と米国の消費者団体で構成するトランスアトランティック消費者ダイアログ(TACD)は昨年、ゲノム編集技術など従来の遺伝子組み換え技術と異なる新育種技術について、EUと米国に対して遺伝子組み換え技術と同様の規制と表示を求める7項目の要請書を送っている。

 日本政府は明確にはしていないものの、規制除外の方針で流れを作ろうとしているように見える。この4月から、ゲノム編集によるジャガイモの屋外栽培試験が弘前大学で始まったが、環境省などはこのゲノム編集ジャガイモについて、従来の遺伝子組み換え規制の対象外と判断したという。農水省などは、消費者の遺伝子組み換え作物への抵抗感から流通や栽培が進まない現状に苛立ちを隠してはいないようにみえる。消費者がゲノム編集作物を受け入れるように、入念な宣伝を考えていると思われる。しかし、菅官房長官のように、問答無用で「問題ない」の一言ですませられることもあり得るかもしれない。

 遺伝子操作自体に異議のある中、拙速な先走りは止めるべきだ。米国が一部に認めている状況では、ゲノム改変食品が輸入され、流通することは確実に起こりうる。少なくとも予防原則に立ち、禁止を含む開発と栽培・飼養への規制の枠組みとともに、ゲノム改変食品への表示規制をはっきりさせることが必要だ。

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