

主要種子法廃止法案は4月14日の参議院本会議で可決され成立した。これにより来年3月31日もって主要種子法が廃止される。このことについて元農水大臣の山田正彦氏は、「既に遺伝子組み換えのコメの種子「WRKY45」等70種が政府に認められ、作付の申請があれば、承認されるばかりになっている」とフェースブックで述べている。はたして来年から遺伝子組み換えイネの商業栽培が始まるのか。その可能性はほとんどないのではないか。

山田氏は「70品種が政府に認められ」ていて、すぐにも作付ができるかのように述べている。しかしこの「70種」は、全て期限付きであり、栽培場所も限られた隔離試験栽培での承認である。どこでも商業栽培が可能な遺伝子組み換えイネは、まだ1品種も承認されていない。
・農水省, 2017-5-21では、すぐにも商業栽培が可能な承認が下りるのかといえば、簡単ではない。まず、遺伝子組み換えイネの栽培には、遺伝子組み換え食品としての承認が必要だ。申請を待って、食品安全委員会がその遺伝子組み換えイネの健康影響評価を行うことになる。申請の時点で大きな問題となることが予想される。
食品安全委員会ではこれまで、遺伝子組み換えイネの評価は行われていない。また、米に対する消費者感情からしても、簡単に「影響がない」とする評価を下すことができるのか疑問である。食品安全委員会での評価もハードルが高そうである。
しかし、飼料米だったら簡単ではないかといえば、そうでもない。飼料米の場合、その遺伝子組み換えイネの葉や茎、米をエサとして与えられた牛や豚、ニワトリなどを食べても健康に影響がないか、食品安全委員会で評価が行われることになる。食用米よりはハードルは下がるだろうが、申請があった時点で大きな問題となる可能性が大きい。
消費者の遺伝子組み換え食品に対する忌避意識は、まだまだ大きい。2014年の北海道道民意識調査によれば、遺伝子組み換え食品の安全性について「不安」だと思っている人は8割に達している。栽培についても8割が「不安」に思っているという結果がでている。
遺伝子操作イネの商業栽培はゲノム編集イネか
従来の遺伝子組み換え規制の枠内である限り、遺伝子組み換えイネの商業栽培は難しいと思われる。一方で、明確にはなっていないものの、ゲノム編集など新育種技術を、従来の遺伝子組み換え規制の枠外とするような動きもでてきている。遺伝子操作したイネの商業栽培について、最も可能性があるのは、ゲノム編集イネではないかと思われる。
すでに弘前大学では今年から、遺伝子組み換え規制の対象外と判断されたゲノム編集ジャガイモの試験栽培が始まっている。つくば市の農研機構でも今年から、ゲノム編集によるシンク改変イネの隔離圃場での試験栽培が実施されている。
・農研機構, 207-5-24規制も表示もないというゲノム編集作物の「囲い込み」の行き着くところは、「何を食べているか分からない」という、消費者の自己決定権がないがしろにされる状況でしかない。人権に関わる問題でもある。
欧米ではすでに、有機農業者や消費者から、ゲノム編集を含む遺伝子操作作物を、従来の遺伝子組み換え規制の枠内で対処するよう求める提言や要請が行われている。
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