消費者庁が進める遺伝子組み換え表示制度検討会の第2回会合が6月20日開かれ、消費者団体など4者からのヒヤリングと意見交換が行われた。意見陳述では4者からは、現行の遺伝子組み換え表示制度がうまく機能していないことが指摘された。議論の中で、今回新たに「遺伝子組み換えでない」(Non−GM)表示を認めるならば不検出に限るべきだという主張がなされた。また、表示拡大した場合、検出可能性ともにコストアップの負担をどうするかという論点も示された。原則的な「消費者の知る権利」からではなく、検証可能性のような技術的な点からの意見、議論が多かったのは残念だ。
意見を述べたのは、主婦連合会の山根さん、日本生活協同組合連合会の二村さん、日本消費者連盟の纐纈(こうけつ)さん、消費生活コンサルタントの森田さんの4人。
主婦連合会の山根さんと日本消費者連盟の纐纈さんは、消費者の知る権利、選択する権利の観点から、現行の表示制度の不備を指摘し、対象食品の拡大と混入率の引き下げをを求めた。現行制度では、遺伝子組み換え原料を使っていても表示しなくてもよい食品(しょう油、食用油など)があり、意図せざる混入率が5%と世界的にも高く設定されているため、遺伝子組み換え原料が混入していても「遺伝子組み換えでない」と表示できるなど、消費者に分かりにくい制度となっていると指摘された。混入率の引き下げに関して、山根さんは可能な限り低い値を求め、纐纈さんはEU並みの0.9%とするように求めた。
山根さんは、最終製品から組み換えDNAが検出されなくても、遺伝子組み換え食品であることは検証可能であるとして、信頼できるトレーサビリティ制度の構築を求めた。また「遺伝子組み換え食品である場合は「遺伝子組み換え」と表示すれば、表示のないものは遺伝子組み換えでないと分かるから「遺伝子組み換えでない」という表示は不要だと指摘した。
纐纈さんは、混入率0.9%への引き下げについて、前回の消費者庁の調査報告を引いて、EUは0.9%がやれているが、EUでできていることが日本ではできないということはおかしい、と指摘した。
PB商品も開発している日本生協連の二村さんは遺伝子組み換え表示について、アレルギー表示など食品の安全に関する表示とは異なり、選択のための表示であり最優先ではないこと、現在の表示が消費者に分かりにくいものとなっていて、何らかの対応が必要だとした。その上で、生協連が独自に運用している表示について紹介した。生協連は、義務表示の33食品群について重量が上位3位以下であっても表示。また、義務表示外のしょう油や食用油についても上位3位以内であれば表示しているとした。生協連はまた、遺伝子組み換え食品の安全性については、食品安全委員会の審査で担保されていて排除しない方針だとした。表示拡大による「コストアップ」の可能性にも言及し、最終的に消費者が負担することになるとも指摘した。
消費生活コンサルタントの森田さんは、ドイツや韓国などが、0.1%ないし0%でなければ「Non−GM」表示ができない制度であることを紹介し、5%未満の混入でも「遺伝子組み換えでない」という表示できる日本の制度が消費者の誤解を招きかねないと指摘した。森田さんはまた、表示コストと検証可能性のの問題を指摘し、消費者教育が必要だとした。
4者の意見は、「消費者の知る権利」の観点から混入率の引き下げと義務表示範囲の拡大を求める山根さんと纐纈さんに対して、コストアップと検証可能性の点から拡大に一定限定的とも思える二村さんと森田さん、という形となった。表示拡大によるコストアップについて山根さんと纐纈さんは、きちんとデータを示して議論するように求めた。
現行制度の「遺伝子組み換えでない」という表示が消費者の誤解を招く、ということで4者の意見は一致している。5%未満であれば、原材料に遺伝子組み換え原材料を使っていても「遺伝子組み換えでない」と表示でき、国際的にも大きく遅れているといえる。議論の中で近藤委員(国立医薬品食品衛生研究所)は、「遺伝子組み換えでない」と表示するのであれば、ドイツや韓国のように「不検出」に限定すべきだと指摘した。
意図せざる混入率 | Non−GM表示 | |
---|---|---|
日本 | 5% | 5%未満 |
ドイツ | EU基準 0.9% | 0.1%未満 |
韓国 | 3% | 0% |
オーストラリア ニュージーランド |
1% | 実質0% |
議論の中で、混入率と検証可能性について近藤委員は、複数の組み換え遺伝子が導入されたスタック品種が増えてきて検出が困難になってきているとして、現状の5%は可能だとしても3%は難しいと指摘した。この指摘について、ある遺伝子組み換え分析の関係者は「組み込み遺伝子の種類が増えて、分析が難しくなっているのは確かだが、やり方を工夫すれば解析は可能だ」という。トウモロコシの承認品種は203品種(2017年5月現在)あるが、親品種だけ見れば31品種にすぎない。この点でも、きちんとしたデータを出すことが必要だろう。
第2回会合について意見を述べた纐纈さん(日本消費者連盟事務局長)は、「消費者の知る権利に焦点が合っていない。検証可能性を落としどころにして、細かな議論にもっていこうとしている」と指摘している。議論の中でも、委員の発言が検証可能性やコスト問題への言及が多くを占めたことは残念だ。
・消費者庁, 2017-6-20 ・消費者庁,2105-12 ・消費者庁 ・農林水産消費安全技術センター, 2012-9【関連記事】
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