消費者庁による遺伝子組み換え食品表示検討会の第3回会合が7月19日開かれ、事業者3社2団体からのヒアリングが行われた。温度差はあるものの、いずれも義務表示の拡大には、反対ないし消極的な意見を述べた。具体的なデータを示しての意見ではなく、言い訳としか聞こえない主張に終始し、ゼロ回答に終わった。消費者が「何を食べているのか」を知る権利は重要なことではないという姿勢が露骨に出ていた。委員からの質問も精彩を欠いた。
ヒアリングで意見を述べたのは、小売業界からイオンリテール、製造業者から日清オイリオ(食用油)と日清シスコ(コーンフレーク)の3社、業界団体から日本植物油協会と日本醤油協会の2団体。
イオンは表示拡大にも混入率引き下げにも消極的
自社ブランド(PB)製品に規制以上の情報を枠外表示しているイオンは、実行可能性については、専門の要員による取引先のサポート体制があり、今のところ取引先を含めて問題がないとした。一方で、義務的表示の拡大には、アレルゲンや原料原産地表示もあり、表示スペースの問題が生ずるとして優先順位を付けるよう要望した。
意図せざる混入いる5%の引き下げについては、輸送上の問題から完全な混入防止は不可能であること、Non−GM原料への需要が増え調達コストが上がる懸念があること、検証可能性性をあげ、拡大に慎重な対応を求めた。
食用油業界は現状維持のゼロ回答
日清オイリオと日本植物油協会は、製造工程で組み換えDNAやタンパク質が「完全に分解」され、Non−GM原料の製品となんら変わらず、義務的表示の対象とすべきではないと主張した。検証可能性について、組み換えDNAが分解されることから検証不可能であり、一部に購入した原料油を使っているため検証できないとした。
また、原料がバルク(ばら積み)であり、混入防止ができないともした。さらに、混入率を5%から引き下げることで、現状2倍近くあるIPハンドリングによる分別品と不分別品の価格差が、より拡大する可能性があることなどから供給問題が生じるとした。
義務的表示の対象となった場合、容器が小さくなっていることや高齢者が増えていることを考慮すると、表示が見えづらくなリ現実的でないとした。その上で、表示制度の改変はせず現行のままとすように求めた。日本植物油協会は、表示拡大は優良誤認を招きかねない、とまで主張している。
意見の中で日清オイリオは、製造委託製品の一部でGM表示を行っているとし、やろうと思えばできないことではないことを明らかにした。
「EUでできることがなぜできないか」という点では、EUが域内調達であり、国際的なトレーサビリティ体制がないから、追跡が不可能であると強調している。この点について立川委員(名古屋大学教授)から、分別品はIPハンドリング制度を根拠にしてるが、トレーサビリティとどこが違うのかとの質問に対し、正面から返答できず、「国際的合意」がないと的外れな言い訳でお茶を濁した。
醤油業界 中小多く重い負担と現状維持
日本醤油協会も植物油協会と同様の意見であり、義務的表示は最小限にして欲しいこと、消費者が知りたいことを義務的表示に含めることには反対とゼロ回答に終った。容器が小さくなっていること、中小業者が多くラベルの印刷のコスト増が問題とも強調し、義務的表示拡大に反対の姿勢を崩さなかった。問題製造工程上、組み換えDNAやタンパク質は分解され、残らないと強調した。
遺伝子組み換え作物のDNA分析を業務としている近藤委員(国立医薬品・食品衛生研究所)から、しょう油からタンパク質が検出されるがどうなのかという質問に、タンパク質の一部は分解されないがDNAは「完全に」分解されると返答した。
日清シスコ 混入率の引き下げは慎重に
コーンフレークを製造・販売している日清シスコは、コーンフレークでの組み換えDNAが検出されるとの消費者庁調査の結果を受けて、表示容認を表明した。現在、日本で製造・販売されているコーンフレークに遺伝子組み換え費原料を使ったものがないことから、業界への影響は大きくないとした。
その上で、遺伝子組み換えトウモロコシが複数の組み換えDNAを持つスタック品種が一般的になり、検出方法に問題が生じているとして、定量分析手法の確立が先決だとした。
意図せざる混入率5%の引き下げについては、調達価格がアップし、場合によっては米国産トウモロコシが調達できない可能性があることから、引き下げは慎重に行うべきだとした。
消費者の知る権利の尊重を
議論の中で、「不分別」の意味が分かりにくく、消費者に理解されていないと指摘があった。イオンによれば、消費者からの「不分別」表示に関して、「(遺伝し組み換えが)「入っている」という事実を濁しているだけなんでしょう」とか「「不分別」と表示があるが子どもに食べさせても大丈夫か」という問合せがあったという。こうした例を引きイオンは、「不分別表示が消費者の不安をあおっている」と述べた。
業界団体は、小売のイオンを含めて、義務的表示の拡大(対象品目、混入率)に慎重ないしは反対の立場を表明した。いずれも検証可能性の問題、原料調達コストの増加、ラベル表示スペースの問題、実行可能性の問題をあげている。しかし、これらの主張は、いずれも具体的な数値データを示したものは一つもない。委員からの具体的な数値の提示を求める質問にも、「分かりません」と言う答えしかないもので、準備していないことがはっきりしていた。言い換えれば、消費者庁、あるいは消費者が舐められていたともいえる。
日本植物油協会などは、トレーサビリティの国際的合意がないと主張する一方、立川委員が指摘したIPハンドリングとの違いを説明できないなど、その主張は消費者を納得させるものではなく、ご都合主義にすら映る。
今回のヒアリングは、消費者からみると散々な結果といえる。検討会開催に当たって消費者庁があげた「検証可能性」、「実行可能性」というハードルがいよいよ高くなったといえるだろう。この日の企業の意見と議論を聞くと、「検証可能性」は、義務的表示拡大を阻むために検討項目の一つとして入れてきたのではないかとの疑念すらわく。
果たして消費者庁や検討会委員に、消費者の知る権利を尊重し、企業側のゼロ回答を押し切るだけの気概があるのだろうか。今後の議論に期待したいが、消費者の知る権利と義務的表示の拡大はかなり難しくなった、というのが印象だ。しかし、消費者が「自分が何を食べているのか」を知る権利は尊重されなくてはならない権利であり、ないがしろにすることは許されない。
次回は、流通業者などの事業者ヒアリングが8月2日に予定されている。
これまでの検討会資料は、一部(第3回の日清オイリオ)を除き公開されている。議事録も第2回までが公開されている。
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