米国では一部の州などでネオニコチノイド系農薬の使用を禁止する州法が制定されるなど、徐々に規制されるようになってきているが、このほど連邦議会にネオニコチノイド系農薬規制法案が提案された。米国下院のブルメナウアー議員(民主党)ら25人の議員は6月23日、「2017年送粉者保護法(H.R.3040)」を共同提案し、下院農業委員会に付託された。
法案は、米国環境保護庁長官に対して、イミダクロプリドなどの全てのネオニコチノイド系農薬について、条件付きながら、法律制定後180日以内に一時的な禁止措置を取ることを定めている。「一時禁止」と規定しているものの、使用には「無害であること」が証明されなくてはならないとしているため、実質的な全面禁止法案となっている。
法案は、ネオニコチノイド系農薬禁止の必要性について、野生送粉者の経済効果や、米国農業への影響、これまでの研究など20項目を列挙している。その上で、条件として、ミツバチや鳥、コウモリなどその他の有益な昆虫の種を含む送粉者(ポリネーター)に対して、ネオニコチノイド系農薬が害を及ぼさないことを査読付きの研究論文で証明できない場合には、登録や使用を禁止すると規定している。
法案はまた、環境保護庁長官に対して、残留濃度や暴露状況など環境に与える影響について年1回の報告を求めている。内務長官には、環境保護庁と共同して定期的な野生のミツバチの状況調査を行うように求めている。
筆頭提案者のブルメナウアー議員は6月30日声明を発表し、これまでの証拠を考えると、このままでは、ネオニコチノイド系農薬により農場や食物と家族を危険にさらすことになり、ミツバチやその他の送粉者は保護を必要としていると主張した。そして、提案した送粉者保護法案は、ネオニコチノイド系農薬に関する問題解決の常識的なステップだとした。
この法案に対し農薬業界団体のクロップ・ライフは、ネオニコチノイド系農薬禁止がミツバチ問題を解決ることにはならない、とコメントしているという。
農薬業界の抵抗にもかかわらず、ネオニコチノイド系農薬の送粉者への影響を確認する研究が積み上がってきている。つい先ごろには、バイエルとシンジェンタの資金を使った、英国政府系研究機関の生態水文学研究所などによる大規模な屋外調査で、ネオニコチノイド系農薬に曝されたミツバチは、その越冬数が最大24%減少したとする研究結果が公表されている。
オバマ大統領は2014年、ミツバチなど送粉者(ポリネーター)の健康に関する特別委員会(Pollinator Health Task Force)を立ち上げ、180日の期限を切って戦略を立てるとぶち上げたが、結局のところ目に見える大きな前進はなかった。現在は、米国環境保護庁によるイミダクロプリドなど再評価が進められている。この禁止法案は、農薬業界や農薬に依存する農業団体などの反対で、実質的な審議に入れないかもしれない。しかし日本と違って、全面禁止法案が提案されるだけでも大きな違いだ。
・アメリカ連邦議会, 2017-6-23 ・Earl Blumenauer, 2017-6-30 ・Bloomberg BNA, 2017-7-27【関連記事】
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