カナダ保健省は3月16日、国際稲研究所(IRRI)による遺伝子組み換えゴールデンライス(GR2E)を承認したと発表した。カナダ保健省の承認は、昨年12月のオーストラリア・ニュージーランド食品基準局(FSANZ)に続くもので、単なる先進国の「お墨付き」を与えるだけの承認である。フィリピンの農民団体マシパグは、多様で安全なビタミンAを含む食料を容易に入手できるようにすることが解決策だと批判している。
カナダ保健省の発表によれば、GR2Eはカナダでの販売を目的としていない上に、カナダ人の米の摂取量からしてβカロテンの摂取増加量はほとんどないと評価している。カナダ保健省はまた、この遺伝子組み換えゴールデンライスがビタミンA欠乏症に有効であるかは評価していないとしている。
カナダ保健省の評価は、ゴールデンライス(GR2E)の食品として問題があるかという点だけについてのみであり、アレルギーを起こす可能性はないとして問題なしと判断している。このゴールデンライスがカナダで販売される場合にはカナダの食品医薬品規則の遵守が要求され、一般の米の名称と区別しうる名称にしなければならないとしている。このカナダ保健省の承認発表は、要するに、食品として申請があったので評価して問題はなかったが販売することまでは認めていない、というもの。
・Health Canada, 2018-3-16申請した国際稲研究所(IRRI)によれば、このゴールデンライス(GR2E)の評価は、オーストラリア・ニュージーランド食品基準局(FSANZ)とカナダ保健省が協力して行われたとしている。IRRIはまた、より多くの鉄、亜鉛、βカロテンを含む米の品種を開発しているとしている。米を主食としているアジアにおいて、こうしたゴールデンライスのような微量栄養素を含む米は、多くの人びとの手に届く可能性があるとして、微量栄養素の欠乏対策戦略を補完するものだと強調している。
・IRRI, 2018-3-19米国食品医薬品局(FDA)は、まだゴールデンライスを承認していないが、今年1月、中国・華中農業大学(湖北省武漢市)が開発し申請した害虫抵抗性の遺伝子組み換えイネ「華恢1号」を承認している。
・人民網日本語版, 2018-1-22国際的に拡がるゴールデンライス反対
この承認にカナダで遺伝子組み換え食品に反対して運動してきたカナダ・バイオテクノロジー行動ネットワーク(CBAN)のルーシー・シャラット氏は「カナダ保健省は、カナダで販売されない遺伝子組み換え食品の安全を評価するために、公的な資源を費やしているべきでない」とカナダ保健省を非難している。
国際稲研究所の地元フィリピンなどアジア地域でゴールデンライスに反対しているストップ・ゴールデンライス・ネットワークの構成団体の一つ、フィリピンの農民組織マシパグは、栽培国での承認前に、米が主食でない米国などの先進国で安全性審査を受けて承認を得ることで、実際に米を食べているフィリピンなどでの承認を得やすくしようとしている、と批判している。
マシパグのパネリオ氏は、「アジアの農家や消費者は、主食として米を植え、食べているのに、国際稲研究所が、なぜ、カナダやオーストラリア、米国に安全性の承認を求めているのか疑問だ。ゴールデンライスのような遺伝子組み換え作物ではなく、持続可能でエコロジカルな農業から、多様で安全なビタミンAを含む食料を容易に入手できるように押し進めることが、栄養失調と戦う長期的な解決策であり、食料安全保障と健康を保障する」と批判している。ゴールデンライスの安全性の研究では十分ではなく、実質的な利益はないとしている。
・Canadian Biotechnology Action Networ, 2018-3-20 ・MASIPAG, 2018-2-14ドイツの独立評価機関テストバイオテックは今年1月、ゴールデンライスを承認したオーストラリア・ニュージーランド食品基準局(FSANZ)の公開データを検討した結果、栄養的にも遺伝子的にも不安定で、安全性の検討が不十分だという見解を明らかにしている。
・Testbiotech, 2018-2-5昨年12月のオーストラリア・ニュージーランド食品基準局(FSANZ)の承認に対して、オーストラリアの4つのNGOは2月、アレルギーや生成されるヘビ毒類似のタンパク質に関する評価がなされていない点などを指摘し、評価が科学的でないことや健康懸念があるとして承認を見直すように求める公開書簡をFSANZに送った。
・MADGE, 2018-2-2ゴールデンライスの試験栽培がおこなわれているフィリピンやインド、インドネシア、ベトナムの農民組織など36団体はゴールデンライスに反対して共同で「ストップ・ゴールデンライス(STOP GOLDEN RICE! Network)」を組織している。国際的なNGOのGRAINとストップ・ゴールデンライスはこの2月、FSANZの承認を非難する共同声明を出した。声明は、ゴールデンライスの反社会性を指摘し、フィリピンとバングラデシュでの開放系での試験栽培が承認されようとしている指摘し、そのような状況への懸念と反対を表明した。
・GRAIN, 2018-2-22バングラデシュのUnited News of Bangladesh(電子版)によれば、バングラデシュ稲研究所(BRRI)は、ゴールデンライスの隔離圃場試験を終えて、開放系での試験栽培の許可を政府に申請しているという。同紙によれば栽培承認は間近だという。
・United News of Bangladesh, 2018-2-5この遺伝子組み換えゴールデンライスを開発している国際稲研究所のあるフィリピンでは、交雑を懸念する遺伝子組み換え作物反対の農民や市民によって、屋外圃場での試験栽培に対する実力行使も行われている。2013年8月には、試験圃場への抜き取り行動が取り組まれている。昨年も共同行動が取り組まれている。
・MASIPAG, 2017-11-8【関連記事】
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