米国のゲノム編集作物開発企業カリクスト社は4月5日、ゲノム編集による高オレイン酸大豆の商業栽培を開始すると発表した。同社は75人の大豆農家と栽培契約を結び、1万6千エーカー(約6千5百ヘクタール)で栽培するとしている。同社は、米国農務省の規制要否の判断を求め、農務省の規制不要の判断のあるものだけを商業栽培に進めているとしていて、このゲノム編集大豆の規制は不要と判断を得ているという。
米国農務省は3月21日、カリクストのゲノム編集による高食物繊維小麦について規制不用とする回答書を公表している。同社は、このゲノム編集小麦について、屋外試験栽培の後、2021年に商業栽培開始を予定しているという。
カリクストはこのほかにも、低温貯蔵ジャガイモ、うどん粉病耐性小麦、高食物繊維小麦など合計7品種のゲノム編集作物について、米国農務省から規制不要の確認を得ているとしている。このうち、ゲノム編集によるうどん粉病耐性小麦について同社は昨年7月、ミネソタ大学と共同で試験栽培を始めているとしている。
・Calyxt, 2018-4-5 ・Calyxt, 2017-2-2 ・APHIS, 2018-3-20日本は年間300万トンの大豆を輸入している。その輸入先は米国(220万トン)、ブラジル(50万トン)、カナダ(30万トン)であり、7割が米国からの輸入である。米国農務省が規制は不要としたゲノム編集の大豆が、日本に輸入された場合、現状では規制されることなく流通する懸念がある。ゲノム編集作物について、目的外のゲノムを改変するオフターゲットが十分に調べられていないとの指摘もあり、人に対する健康影響は十分に確認されているとはいえないのではないか。
・農水省, 2017-10海外食料需給レポート
これまでの遺伝子組み換えとは異なり、外部から遺伝子を挿入することなく、ゲノム編集により特定の遺伝子を「ノックアウト」した作物について、米国は規制不要の立場を取っている。環境や健康への影響評価を行うことなく商業栽培が進み、食品として売られることになる。
世界的にはゲノム編集作物への規制ははっきりしていない。昨年、ドイツの環境相は、ゲノム編集作物はこれまでの遺伝子組み換え作物と同等に扱うとの方針を明らかにしている。欧米の市民の間でもゲノム編集作物への懸念は大きく、反対運動が起きている。しかし、政府間レベルでは、こうした米国政府の見解が国際的に合意される可能性も十分にありえる。ことに米国追従の姿勢が著しい日本政府は、米国の後を追う可能性が高そうだ。遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンは昨年、ゲノム編集作物への規制への見解を求める公開質問書を提出したが、農水省は文書での回答を拒否している。
日本政府は、ゲノム編集作物の試験栽培についてケースバイケースで進めているが、弘前大学が開発したゲノム編集ジャガイモの屋外試験栽培が、昨年4月から始まっている。
・弘前大学, 2017-4-20【関連記事】
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