EU委員会は4月27日に3種類のネオニコチノイド系農薬(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム)の屋外使用の禁止について加盟国の投票を行う。EU委員会の規制は全面的な規制ではなく、限定的に受粉用のハチへのリスク、排出される水による生態系汚染への注意を前提に、温室内での使用に限定して、温室内で栽培される作物は温室外へ持ち出してはならないとしている。加盟国の投票にかけられるEU委員会の規制案は公開されている。
・European CommissionEU委員会は2013年12月以来、3種類のネオニコ系農薬の屋外使用を暫定的に禁止し、欧州食品安全機関で評価を続けてきた。欧州食品安全機関は2月、これらのネオニコ系農薬が野生のミツバチ類を含めてリスクがあるとする評価結果を公表している。
この問題について欧州養蜂家の連携組織のBeeLife European Beekeeping Coordinationは、EU委員会の閣僚と面談し、4月27日の投票実施を確認したと発表した。BeeLifeは声明で、「4月27日にこれらの農薬の使用を終えなければならないし、終わりにできる。EUにおける食料主権と市民の健康を守るべき当局の信頼性が危機に瀕している。加盟国が決定しないとすれば、ある種の《国家主権》が背後にあることは明白だ」とする会長の談話を載せた。背後のある種の《国家主権》が農薬企業を意味することは明らかだろう。
4月27日の常任委員会での決定には特定多数(15カ国以上の賛成と人口比65%以上)が必要だが、その帰趨ははっきりしない。少なくともEU加盟28カ国のうち、人口比でおおよそ50%となるフランス、英国、イタリア、ドイツの4大国の賛成がないと成立は危うい。これまでにフランス、イタリア、英国を含む11カ国が規制に賛成を明らかにし、ドイツとオランダは様子見だとEuractivが伝えていた。
そのドイツでは3月に第4次メルケル連立政権が難産の末に発足した。メルケル首相与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、社会民主党(SPD)の連立交渉で、農薬制作として体系的な最小化戦略によりグリホサートを含む農薬の使用を大幅に制限し、可能な限り迅速に使用を終了させることで合意した。ドイツ連邦政府のユリア・クレックナー農業相は、3月の所信表明演説でミツバチ保護とネオニコチノイド農薬に触れ、次のように述べたという。
EU委員会の提案に対して、ドイツがクレックナー農業相の演説「ミツバチに有害な物は、市場から除去しなければならない」の通りに、屋外使用の禁止に賛成に回るならば、イミダクロプリドなど3種類のみ、かつ屋外使用の禁止と限定的とはいえ、ネオニコ系農薬の恒久的な規制強化が決定される可能性は高そうだ。
しかし、この限定的な規制に欧州の環境団体は不十分だと指摘している。3月には欧州の60余りのNGOが連名で、ネオニコチノイド農薬を速やかに禁止するよう求める書簡をユンケルEU委員長に宛てて送った。グリーンピースは「EU委員会と加盟国がかくれんぼで遊んでいるようだ。農薬メーカーは傍観し、危険な農薬を売り続けてる。禁止が遅れるだけ、ミツバチと環境に大きなダメージを与える」と警告している。
国際農薬行動ネットワーク・欧州(PAN Europe)は4月11日、「加盟国は、環境のために委員会の提案を支持するほかない」と賛成投票を求める声明を発表した。
・PAN Europe, 2018-4-11国際的な科学者による浸透性殺虫剤タスクフォースは今年2月、有害なネオニコチノイド系農薬の実行可能な代替策について、総合的病害虫管理(IPM)の原則と手法を用いることが、経済的にも効果的であるとする新たな研究論文を専門誌に発表した。実行可能な代替策と有効性を比較検討した200編以上の論文を分析し、「害虫と戦うにはごく少量の農薬で足り、 残りは環境を汚染する」としている。水溶性のネオニコチノイド系殺虫剤は土壌残留性が高く、土壌微生物や水生生物にとって有害であるとしている。
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