農民連食品分析センターは5月1日、東京都内で購入した漢方生薬から、ネオニコチノイド系殺虫剤や除草剤2,4−Dなどの残留農薬を検出したと発表した。農薬378成分について検査し、8種類の生薬のうち5種類から残留農薬を検出したという。検出された成分が最も多かったのはチンピの5成分で、痕跡まで含めればチンピからは9成分が見つかったという。
同センターは2003年、漢方生薬5種類の残留農薬を調査し、うち4種類からパラチオンなどを検出したと発表している。この発表により厚労省は漢方生薬の残留農薬研究班を設置し、実態調査を行っている。しかし、依然として漢方生薬の残留農薬基準値は設定されていない。
農民連食品分析センターは、15年経っても漢方生薬の基準値は設定されていないことから、現状がどうなっているか調べてみようと今回の調査を行ったという。
同センターの分析では表1のような農薬が検出されたという。前回2003年には検出されなかった、ネオニコチノイド系のアセタミプリドとイミダクロプリド、チアメトキサム(痕跡)がチンピ(ミカンの皮の乾燥品)やタイソウ(ナツメの乾燥果実)ソヨウ(シソの葉の乾燥品)から見つかっているとしている。また、チンピからは除草剤の2,4−Dが見つかったという。
・農民連食品分析センター, 2018-5-1なつみかの外果皮 キジツ
その他野菜 ソヨウ
その他果実 サンシュユ、タイソウ
みかん チンピ
成分名の前の * は一律基準値 0.01ppm が適用される
日本食品化学研究振興財団 残留農薬基準値検索システム
日本漢方生薬製剤協会のまとめによれば、漢方製剤の生産規模は約1600億円。しかし、生薬原料の国内生産は1割に留まり、8割が中国からの輸入だという。生薬原料の残留農薬については日本漢方生薬製剤協会は、チンピとタイソウについて現地調査を行い、国内流通品の分析結果を公表している。
・農水省, 2016-11 ・生薬学雑誌 65(1),10-17(2011) ・生薬学雑誌 68(2),78-87(2014)第1報ではチンピについて、08年から09年にかけて現地調査と国内流通品の分析を行っている。現地調査で、収穫後、浙江省で防カビ剤のイマザリルに浸漬する際、「1000倍の希釈液に少量の2,4−Dナトリウム塩を加え1分間浸す」とあり、国内流通品からイマザリル0.02ppm、2,4−Dナトリウム塩0.25ppmを検出したとしている。また、現地では未確認のイミダクロプリドを0.01ppm検出したとある。
日本漢方生薬製剤協会の報告をみると、農民連食品分析センターのチンピの検体は、同センターのいうように防カビ剤のイマザリルが検出されていることから中国産と思われる。同じチンピから検出された除草剤の2,4−Dは、防カビ処理に使われたもの可能性がありそうだ。
薬の原料から残留農薬が見つかることはショッキングなことだ。2003年の農民連食品分析センターをきっかけに、生薬原料の残留農薬が問題となったにもかかわらず、15年経っても影響評価に基づく生薬原料の残留基準値が設定されていない。健康に問題があり服用する薬の残留農薬は、健康な一般の人に対して設定されている食品の残留基準値と同じであっても問題はないのか? 予防原則に立てば、残留していないことが最善であり、残留したとしてもより厳しい基準が必要ではないか。
こうした8割を輸入に依存している状況に農水省は、生薬原料作物の国内栽培の産地化に予算を付けている。その産地化の中で、生薬原料の残留農薬基準値を上げようとする動きがある。商業栽培されるとしても、それ以前に薬の原料である。こうした動きは願い下げだ。
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