農民連食品分析センターはこのほど、市販の食パンのグリホサート残留調査結果を公表した。国産小麦と有機食パンでは検出されなかったものの、それ以外の11製品からグリホサートが検出されたという。同センターは今年3月、市販の小麦粉と小麦製品の残留グリホサートについても検査しており、小麦の原産地が米国かカナダであることがわかっている製品からは、すべてでグリホサートが検出されていた。日本の小麦は8割以上が輸入。その多くが米国産とカナダ産であり、農水省の調査では米国産、カナダ産のほとんどからグリホサートが検出されている。
農民連食品分析センターの調査は、市販の食パン13製品と菓子パン2製品について行ったもの。サンプルは、原産地表示のない10製品、国産3製品、不明2製品の計15製品。原料小麦が国産の3製品と原産地の記載のない有機食パン1製品からは検出されなかったが、原産地の記載のない9製品と原産地不明の2製品から、最大0.23ppmのグリホサートを検出したとしている。
※原料産地記載なしの1製品は有機食パンであり残留グリホサートは不検出
グリホサートの残留基準値は、パンについては設定されていない。しかし、原料の小麦の残留基準値は2017年、事業者からの申請により、それまでの5ppmから30ppmに大幅に緩和されている。米国やカナダなどでは収穫直前に強制的に枯らして乾燥させるための除草剤散布(プレハーベスト)にグリホサートの使用が認められている。農水省の輸入米麦の残留農薬調査でも、カナダ産はほぼ100%から、米国産も約95%からグリホサートが検出されていると公表されている。
こうした生産国の実情が、残留基準値の大幅緩和をもたらしている。このプレハーベストによるグリホサート散布が、今回の食パンのグリホサート検出の原因と思われる。日本では、乾燥目的の収穫直前のプレハーベストは認められていないことから、国産小麦が原料の製品からは検出されなかったのだろう。
・農民連食品分析センター, 2019-4-12 ・農民連食品分析センター, 2019-3-10今回の農民連食品分析センターの検査結果は、残留基準値の30ppmを大きく下回っている。残留基準値を設定する厚労省の方法は、食品ごとに摂取量をモデル化して算出していて、「直ちに影響はない」かもしれない。しかし少しでも影響を避けるには、まず国産小麦を使った製品を選ぶことだ。
世界保健機関(WHO)の下部機関である国際がん研究機関(IARC)は2015年、グリホサートについて「おそらく発がん性がある」とする評価を公表している。
EUでは健康への影響懸念からグリホサート禁止を求める市民の声が大きい。法的拘束力のあるグリホサート禁止を求める市民発議では、EU加盟国の市民140万人の署名が集まっている。イタリアのパスタメーカーのバリラ社は昨年、グリホサートに対する消費者の懸念を考慮して原料のカナダ産デュラム小麦の輸入を35%削減し、新たな契約をストップしたと明らかにしている。米国では、グリホサートの健康影響懸念から、民間のグリホサート不使用認証も始まっているほどだ。
農民連食品分析センターでは今後、菓子パンや市販のビール製品、学校給食のパンの調査などを進めていくとして、そのための資金の募金も呼びかけている。
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