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長年にわたり自宅の庭でラウンドアップを使っていたことで、がん(非ホジキンリンパ腫)を発症したとして、モンサントに賠償を求めていた裁判でカリフォルニア州地裁の陪審は5月13日、合計約20億ドル(2200億円)の賠償を命ずる評決を下した。原告2人に5500万ドル、懲罰的賠償として原告一人に付き10億ドルを支払えというもの。モンサントを買収したバイエルは13日、評決に失望し上訴すると発表した。
この評決は、1万3千件を超えるラウンドアップによる健康被害に対する損害賠償訴訟で3件目となる。昨年8月の最初の裁判では2億ドル(後に約8千万ドルに減額)、今年3月にも8千万ドルの賠償を命ずる判決が下されており、3件続けてバイエルの敗訴となる。
陪審は、ラウンドアップが不完全なものであり、モンサント(現バイエル)ががんのリスクを警告しなかったとして会社の過失を認定したという。その上で損害賠償として、原告のアルバ・ピリオドさんに1800万ドル、妻のアルバータ・ピリオドさんに3700万ドルを認め、かつ懲罰的賠償として計20億ドルを認めた。原告一人に付き10億ドルの懲罰的賠償額は、2017年にモンサントが農薬部門で得た利益8億9200万ドルに基づくものだという。
・Reuters, 2019-5-13 ・Bloomberg, 2019-5-13 ・Bloomberg, 2019-5-9バイエルは5月13日、カリフォルニア州地裁における20億ドルの陪審評決に関し、失望を表明し、先月発表されたグリホサート製品が安全に使用できるとする米国環境保護庁(EPA)の中間評価と矛盾するとして、この評決に異議を申し立てるとの声明を発表した。
国際がん研究機関(IARC)は2015年、グリホサートにおそらく発がん性があるとしたが、バイエルは13日の声明で、EPAの中間評価はIARCの評価よりも強く透明性があるにもかかわらず、陪審が原告の主張するIARCの評価を認めたと非難している。バイエルは、世界の規制当局の間ではIARCの評価は異常であるとまで言い切っている。
・Bayer, 2019-5-13バイエルが評決非難の根拠にした米国環境保護庁(EPA)の中間評価は4月30日に公表された。この中間評価で米国環境保護庁は、グリホサートは安全であり、公衆衛生に対するリスクはなく、発がん性物質でもないことを再確認したとしている。
・EPA, 2019-4-3013日の20億ドル賠償の評決は、この米国環境保護庁の発表のわずか2週間後、「発がん性物質でもないことを再確認した」という評価を真っ向から否定したことになる。
昨年9月のモンサント買収以来、バイエルの株は40%以上下落したという。先週にはモンサントによる、違法な200人以上のジャーナリストなどの個人情報収集に関し、フランス・ルモンド紙と記者の訴えでフランスの検察が捜査に乗り出している。生き残りに600億ドルでモンサントを買収したバイエルは、とんでもないババを引いてしまった格好である。
反農薬NGOは勝訴を歓迎
この評決に対して、これまでラウンドアップ(グリホサート)反対の運動を展開してきた米国の市民団体やNGOはこの評決を歓迎し、政策の転換を求める声明を相次いで表明している。
国際農薬行動ネットワーク・北米は13日、「ピリオドさんの勝利は転換期を迎える画期的な瞬間である。何十年もの間、モンサントはグリホサートは無害であると農民、農場従事者、農薬散布者、そして住宅所有者に思わせていた。公共機関を科学に対して責任があるようにしなければならない」「今日の評決は、バイエルがグリホサート製品の被害に賠償しなければならないと陪審員が続けて認めた3件目のことである。世論は明らかに変化しており、裁判所は科学に従い始めている。発がん性のある農薬を市場から閉めだし、生態系農業への取り組みの過渡期の農家を支援する時が来た」との声明を発表した。
・PAN NA, 2019-5-13長年モンサントやEPAを相手に法廷闘争を展開してきた米国・食品安全センター(CFS)は13日、「彼らの勝利は、グリホサートの危険性について他者を教育し、将来の多くの苦しみを防ぐだろう」とコメントした。
・Center for Food Safety, 2019-5-13市販のシリアル製品から残留グリホサートを検出し、収穫前のグリホサート使用の禁止を環境保護庁に求めている環境ワーキンググループ(EWG)は13日に声明を発表し、「グリホサートによるがんのリスクを秘密にしておくために、規制当局や威圧的な科学者と共謀した」と非難し、農民やグランドキーパーでなくともグリホサートに曝されていると指摘した。
・Environmental Working Group, 2019-5-13農薬行動ネットワーク・北米(PAN NA)が指摘するように、有害な農薬を使わない生態系と親和性のある農業に移行しない限り、農薬による健康被害は形を変えて起き得るし、生態系への悪影響は避けられない。
日本でも非農業用のグリホサート剤は、ホームセンターやドラッグストアで普通に売られているが、今回の裁判で問題になったような農業用ではなく、公共の公園や家庭での使用も大きな問題であり規制を強化すべきだ。同時に、非農業用の除草剤など野放しにして環境汚染を生じないように、自治体や関係業界による安全な回収の枠組みも必要だろう。
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