米国環境保護庁は7月18日、北米農薬行動ネットワークなどの米国の環境NGOが求めていた有機リン系殺虫剤クロルピリホスの使用禁止を拒否した。一方、欧州食品安全機関(EFSA)は8月2日、2020年1月に登録期限が来るクロルピリホスについて、評価は完全に終わっていないが、承認更新に要求されている基準を満たしていないと発表した。EUでは期限切れで使用禁止になりそうだ。
EFSAは発表で、小児における影響を示す疫学的データによって裏付けられている、発生中の遺伝毒性影響および発生中の神経影響についての懸念を確認していて、このことはその物質について安全な曝露レベル(あるいは毒性基準値)が設定できないことを意味すると述べている。
・EFSA, 2019-8-2一方、米国では北米農薬行動ネットワークなどによる禁止を求める訴訟が続いていた。2015年10月、米国環境保護庁は一旦はクロルピリホスの農薬としての使用禁止を決定した。その後、トランプ政権下の2017年になり使用禁止を撤回した。アース・ジャスティスなど環境NGOによる禁止を求める訴訟において、連邦地裁は2019年4月、環境保護庁に90日以内に禁止に関する方針を確定するように命じ、90日の期限ぎりぎりになって環境保護庁は禁止を撤回した。
ロイターによれば、製造元のコルテバ・アグロサイエンス(ダウ・デュポンの農業部門を分社化)は、裁判所へ提出した書面で、クロルピリホスへの曝露を子供の健康問題に結び付ける十分な証拠はないと述べたという。
この決定を受けて北米農薬行動ネットワーク(Pesticide Action Network North America)は7月19日、非難する声明を発表した。シェーファー事務局長は「今日の決断は恥ずべきことです。それは何十年にもわたる強力な科学的証拠と当局の科学者の勧告を無視しています。この政権は、正当な理由もなく、全国の子供、労働者、そして農村の家族を危険にさらし続けており、私たちは、この危険な化学物質の連邦政府による完全な禁止を求め続けます」と述べている。同ネットワークはまた、この決定の数週間前に製造元のコルテバ・アグロサイエンスの経営トップがトランプ大統領と面会していたと指摘している。
食品安全センター(Center for Food Safety)は7月18日、クロルピリホスに曝露した子どもに学習障害を起こすという科学的に一致した見解を否定したと、決定を避難する声明を発表した。同センターの科学政策アナリストであるフリーゼ氏は、「トランプ政権は、この神経毒性化学物質によって引き起こされる完全に回避可能な学習障害に子供が苦しみ続けることを確実にして、米国の子供たちを裏切った」と述べている。
これまでの米国における調査研究の結果、クロルピリホス曝露が低体重児の出生、知能の低下、自閉症の増加など子どもの神経系へ影響することが確認されているという。米国では、年間約4千トンのクロルピリホスが使われているという。
・Reuters, 2019-7-19 ・PAN NA, 2019-7-19 ・Center for Food Safety, 2019-7-18 ・PAN NA日本は2003年、建築用材へのクロルピリホスの使用を禁止した。しかし農薬として、ミカンなどのかんきつ類、ジャガイモ、大豆、茶、玉ねぎなどへの使用を認めている。現在、日産化学などの7種類が農薬登録されている。国立環境研究所のまとめ(化学物質データベース)によれば、この10年間、毎年70トンから80トンのクロルピリホスが出荷されている。
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