グリーンピース・ジャパンは8月23日、この間集めてきた着色粒規定など農薬の過剰使用につながる現行規定の見直しを求める署名約1万9千筆を、生協連コープ自然派事業連合、米の検査規格の見直しを求める会、生き物共生農業を進める会ととも農水省に提出した。農水省は、米の検査規格の見直しを今年8月までに行うとして、「農産物規格・検査に関する懇談会」を今年1月以来3回開催してきた。この署名は、この見直しに農家や消費者の声を反映させようと行われていた。俎上に上がっている米の検査規格の中でも、着色粒規定がネオニコチノイド系などの農薬の過剰使用の元凶といわれてきた。
署名を受け取った穀物課米麦流通加工対策室・上原室長は「年間10万トンづつ米の消費量が減っている。多様なニーズがあるが、消費者の意見として参考にしたい」と述べた。斑点米などの着色粒は色彩選別機で取り除くことが出来るが、そのコストについては「データを持っていない。教えて欲しい」というだけで、農水省がしっかり調査すべきだとの要請にも、はっきり実施するとは応えず、着色粒規定の見直しに前向きな姿勢は感じられなかった。また、中嶋係長(農産物検査班)は、中断している懇談会の日程も未定だとだけ述べ、見通しも明らかにしなかった。
グリンピース・ジャパンの関根さん(食と農業担当)は、農水省のアンケートは回答が142名と少なく、また、懇談会も消費者の声を反映した議論が行われているとは思われないと指摘した。そして、グリーンピースが行った消費者アンケートでは、「農薬を使ってでも斑点米を取り除いて欲しい」という意見はわずか1割ほどと少なく、「農薬を使わないで除去できるならそうして欲しい」という意見が約6割を占めたことを示して、消費者の声を反映させ、農家が農薬を使わなくてもよい制度にすべきだと要請した。
この署名に賛同して署名を集めてきた生協連コープ自然派事業連合の辰巳副理事長は、同生協が2012年よりより組んできたネオニコチノイド系農薬を使わない(ネオニコフリー)米の生産と供給の経験から、ネオニコチノイド系農薬を使わない米の生産は容易だと説明した。その上で、先ごろ発表された独協医科大などによる、母体から胎児へネオニコチノイド系農薬が移行するという研究に触れ、子どもへの影響が心配であり、子どもの健康を守るためにも規制して欲しいと述べた。
この日は参加できなかった秋田県大潟村の米農家の今野さんは、「現行の農産物検査法の目的を農産物の安全性の向上を図ることに変え、等級制や着色粒規定を廃止するなど、抜本的な見直しが必要と考えています。今回の見直しで着色粒の問題が解消されなければ、今後も長ければ数十年間、日本の水田で無駄な殺虫剤散布が続く可能性があります」とコメント寄せた。
・グリンピース・ジャパン, 2019-8-231等米と2等米では、60キロ当たり500円から1千円の買入価格差があるという。この着色粒規定をクリアして1等米にしようと、ネオニコチノイド系などの農薬が過剰に使使われていると指摘されていた。反農薬東京グループのまとめた農薬要覧のデータからは、カメムシ斑点米防除による過剰使用の実態がうかがい知れる。カメムシ防除を目的とした農薬散布は、実際の斑点米カメムシの発生面積の約2倍の面積で散布され、延べ散布面積は約3倍に達している。しかし斑点米があったとしても、流通の途中で色彩選別機によって取り除かれ、消費者の目に触れることはない。こうした過剰な農薬使用は「無駄」といわざるを得ない。消費者にとっても残留する農薬は不要なものだ。
グリーンピースの実施したアンケートによれば、消費者の多くが米の等級(1等米、2等米)は食味によるものだと理解している(65%)。実際の色や形による見た目で判定されていることを理解しているのは14%にすぎない。
・グリンピース・ジャパン, 2019-8-23着色粒規定見直しに消極的な農水省
農水省はこれまでに、米の検査規格の 見直しに向けたアンケートを都道府県に対して実施している。その結果では都道府県の約半数が着色粒規定の緩和を求めている。都道府県の回答の詳細について、農水省はかたくなに明らかにしていない。
・農水省, 2019-1消費者の「農薬を使わなくてもよい」との声があるにもかかわらず、農水省は着色粒規定の見直しについて消極的な姿勢を崩していない。
農水省は今年3月、「農産物規格・検査に関する懇談会における中間論点整理」を取りまとめ公表した。これによれば、着色粒規定の緩和に反対しているのは、集荷業者や大型乾燥調製施設の約5割だという。色彩選別機による除去については、「それなりの手間がかかるが、全ての着色粒が除去できるわけではないので、現実的には緩和は困難が伴う」として否定的な見解を載せている。その上で、「データを持っていない」と認めているにもかかわらず、平然と「色彩選別機での除去は相当なコストを伴う」として「基準の緩和は難しいのではないか」としている。しかし、コープ自然派事業連合の辰巳副理事長によれば、これまでに色彩選別機を導入して稼動させているが、この選別コストが大きな問題になることはないという。いろいろともっともらしい理由をつけて「見直しをやりたくない」というのが農水省の本音のように見える。
・農水省, 2019-3 ・農水省【関連記事】
- ネオニコ系国内出荷量 21年度3.8%増 第二世代は63%増
- 有機農業は排外主義に与しない 参政党に反対する農民と市民が声明
- 冊子『スルホキサフロル 新しいネオニコチノイド系農薬』刊行のお知らせ
- ネオニコ系イミダクロプリド 自閉スペクトラム症様の視知覚障害を引き起こす
- 厚労省:グリホサートの残留基準値を大幅緩和を告示
- メキシコ GMトウモロコシ栽培を禁止 24年までに輸入も段階的に禁止
- 東アジアは農薬のホットスポット 日本はトップ5
- 農薬再評価 ネオニコとグリホサートなど優先14品目を告示
- 米国産ジャガイモ 輸入規制緩和 ポストハーベストも認める
- 輸入小麦の残留グリホサート 豪州産の検出率急増