米国の2つの環境NGO、生物多様性センター(Center for Biological Diversity)と食品安全センター(Center for Food Safety)は8月20日、米国環境保護庁(EPA)を相手取って、ネオニコチノイド系スルホキサフロルの適用拡大を取り消すよう連邦地裁に提訴した。米国環境保護庁は今年7月、スルホキサフロルの規制緩和を行っていた。
訴状では、7月の米国環境保護庁の決定は、連邦殺虫剤、殺菌剤、殺鼠剤法が要求する「実質的証拠」を集める法的義務を怠ったと指摘している。
米国環境保護庁は今年7月、スルホキサフロルの適用拡大に踏み切った。農薬メーカーのデータを元にして、影響は少ないとして一部開花期規制を含む適用作物を拡大していた。米国環境保護庁は2015年、米国蜂蜜生産者協会( American Honey Producers Association )などが承認取り消しを求めた裁判で敗訴し、一旦登録を取りした。米国環境保護庁は2016年、スルホキサフロルを再登録したが、この時の規制についても一部解除した。今回の提訴で、この適用拡大の取消を求めている。
・Center for Biological Diversity, 219-8-20この提訴のに合わせて生物多様性センターは、ファクトシート「スルホキサフロルに関する事実」を公開した。
Center for Biological Diversity, 2019-8
日本では2019年9月現在、16種類のスルホキサフロル剤が登録されている。適用作物は稲のほか、リンゴ、ナシ、柑橘などの果実類、キャベツ、ハクサイ、大根やキュウリ、なすなどの果菜類も広くカバーしている。
スルホキサフロルもミツバチ類に高いリスク
スルホキサフロルは、従来のネオニコチノイド系農薬と比べ、ミツバチなどへの影響が小さいと喧伝されている。スルホキサフロルもこれまでのネオニコチノイド系と同じよう、神経細胞のニコチン性アセチルコリン受容体に作用している。そして、このところ、リスクは小さくないという反証がいくつも発表されている。欧州食品安全機関(EFSA)のリスク評価や欧州の大学などの研究グループにより、スルホキサフロルのミツバチへの影響を指摘する結果が明らかになっている。
スルホキサフロルは、ネオニコチノイド系と同じように野生のハチに有害との研究結果が発表されている。昨年8月、ロンドン大学の研究グループは、スルホキサフロルはマルハナバチの繁殖に有害と発表している。
・Royal Holloway University of London, 2018-8-14欧州食品安全機関(EFSA)は今年3月、スルホキサフロルについて追加情報によるリスク評価書を公表し、いくつかのシナリオを検討した結果、ミツバチとマルハナバチに対する高いリスクが特定されたとしている。
・EFSA, 2019-3-28国際的な農薬業界団体の世界農薬工業連盟(CropLife International)は、スルホキサフロル(4C:スルホキシイミン系)はネオニコチノイド系農薬(4A:ネオニコチノイド系)とは異なった分類に位置づけている。ネオニコチノイド系農薬を全面禁止としたフランスも、スルホキサフロルは禁止の対象外としている。
しかし、オランダのルーヴェン・カトリック大学の研究グループは今年4月、スルホキサフロルの受容体はネオニコチノイドと実質的に同一であり、同じ作用機序であると専門誌に発表した。この結果について、化学的な組成で分けるのではなく、標的とする受容体における薬理学的活性に基づくべきであることを示唆するとしている。
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