カナダ・サスカチュワン大学などの研究グループは9月13日、渡り鳥が途中の休憩地で、ネオニコチノイド系農薬に汚染された餌を食べた場合、急激に体重や脂肪が減少し、出発の時期に大きな影響を与えるとする研究結果をサイエンス誌(電子版)に発表した。この研究は、野生の鳥に対するネオニコチノイド系農薬の影響を追跡する最初の実験だという。同グループのエンさんは「現実レベルのネオニコチノイド曝露と鳥類への影響との間に明確な関連性があることを示しています」と述べているという。
発表によれば、ミヤマシトド(Zonotrichia leucophrys、スズメ目ホオジロ科)が渡りの途中、野外で現実的な量のイミダクロプリド(体重1キログラムあたり1.2または3.9ミリグラム)を摂取すると、採餌量が減るとともに、体重や脂肪が急速に減少し、出発の時期に大きな影響を与えたという。そして、このような遅れは、移動における生存率の低下と生殖の成功の減少につながる可能性があり、個体数に影響を与える可能性があるとしている。
研究グループは、渡りの途中のミヤマシトドを捕らえ、イミダクロプリドで汚染された餌を与えて、その影響を調べた。高用量を与えられた鳥は、6時間で体重が6%減少したという。カナダではネオニコチノイドによる種子処理が一般的であるが、サスカチュワン大学のモリッシー博士(生態毒性学者)によると、この高用量は、イミダクロプリドで処理したヒマワリまたはトウモロコシ種子の10分の1、あるいは3粒以上の小麦種子の摂取に相当するという。モリッシー博士は「この量はごくわずかで、この鳥たちが毎日食べる量のほんの一部にすぎない」と指摘しているという。
高用量を与えられた群は、対照群と比較して中央値で出発が3.5日遅れたとしている。この間に、減少した体重や脂肪を回復している可能性が高いという。この渡りの遅れは、生殖機会を失う可能性があるという。
北米では、1966年以降、農業地帯に依存する鳥類の75%の種の個体数が著しく減少しており、新たな研究の結果は、農薬がこの減少に直接寄与している可能性のあるメカニズムを示している、と指摘している。
モリッシー博士の研究グループは2017年、イミダクロプリドで処理した菜種種子を餌にしたミヤマシトドの移動能力が低下する、という研究結果を発表している。今回の発表はこの研究を進めたもの。
・University of Saskatchewan, 2019-9-12 ・Science, 2019-9-13 ・National Geographic, 2019-9-13 ・Scientific Reports, 2017-11-9ミツバチのような昆虫ばかりだけではなく、今回の研究のように鳥類への影響がわかってきた。さらには、ネオニコチノイド系農薬の代謝物質が、母体から胎児に高率で移動する可能性があることを示唆したと、獨協医科大学などの研究グループが今年7月に発表している。
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