産総研などの研究グループは11月1日、ネオニコチノイド系農薬系農薬の一つイミダクロプリドが使われ始めたのと時期を同じくして宍道湖(島根県)のウナギ、シラウオ、ワカサギの漁獲量が激減している状況があり、これらの餌となる水生生物を殺し、間接的にウナギやワカサギを激減させていた可能性を指摘した研究結果をサイエンス誌(米国)に発表した。これはネオニコチノイド系農薬の使用が漁業に与える影響を明らかにした、世界で初めての研究だという。
このようなネオニコチノイド系農薬の漁業への影響は日本に限らず、日本同様に田んぼが多い東南アジアなどをはじめ、世界のどこでも起こりうる。ネオニコチノイド系農薬の特徴の一つが効果が長く続くという点にあり、河川や湖沼での影響もそれだけ長く続くということであり、影響は大きく、ネオニコチノイド系農薬の規制強化が必要だ。
研究グループは、水田で使用されたネオニコチノイド系農薬が川に流出し、河川や湖沼の環境に影響を与える可能性を指摘している。日本では1992年11月にイミダクロプリドが農薬登録された。研究では翌年春の田植え時期から使われ始める。それと同時にエサとなる春の時期のプランクトンが8割以上激減し、同時に動物プランクトンをエサとするワカサギの漁獲高は240トンから22トンと90%以上、ウナギは74%減少したという。
研究グループによれば、宍道湖の動物プランクトンの大部分をしめるキスイヒゲナガミジンコは、ちょうど田植え時期に一致する1993年5月に激減していたことが分かったが、植物性プランクトンの量は変わらなかったという。また、宍道湖は汽水湖でありオオクチバスなどは生息できず、その影響はないとしている。こうしたことから、ウナギなどの減少の原因は、ネオニコチノイド系農薬で動物性プランクトンが減少したことにあると推察されるとしている。
時事通信によれば、研究グループの山室さんは「昆虫にしか効かないとしても、水生昆虫は重要な餌であり、魚や鳥への影響は大きい」と指摘している。
・Science, 2019-11-1 ・産総研, 2019-11-1 ・時事通信, 2019-11-1これまでに、国内河川におけるネオニコチノイド系農薬の汚染について、いくつもの研究結果が報告されている。
日本植物防疫協会の実施した環境省委託調査(2009年)では、水田で散布したネオニコチノイド系農薬が散布直後から河川に流入する状況を報告している。秋田県大仙市の田んぼに散布されたネオニコチノイド系農薬系のジノテフランが、雄物川の観測地点で散布3日後から増加し、4日後にピークになったという。川が海に直結しているのではなく、湖や沼に流れ込んでいる場合、汽水湖でなくとも、宍道湖で明らかになったようなネオニコチノイド系農薬の影響は十分に考えられる。
・日本植物防疫協会, 2010-3-31河川におけるネオニコチノイド系農薬汚染は埼玉県や神奈川県、岐阜県でも報告されている。
・埼玉県 ・水環境学会誌, 2016 ・岐阜県公衆衛生検査センター, 2017英国でも河川におけるネオニコチノイド系農薬汚染が確認されているが、今回の研究についてガーディアンは、静かな春が漁業崩壊を確認と報じている。
英国の環境団体のバグライフ(Buglife)はこれまでに、イングランド東部の河川でのネオニコ汚染を報告している。この研究結果にバグライフのシャードローさんは、「小さな昆虫の絶滅と魚への波及効果は、ネオニコチノイドの恐ろしい愚かさのさらなる証拠となります。これがアジア諸国にとって警鐘となることを期待しましょう」とガーディアンに語っている。シャードローさんはまた、「バグライフが報告したイングランド東部の河川におけるネオニコチノイドの濃度が、この研究で報告された濃度と非常に類似していることもとてもに懸念されます。英国の川に被害があったに違いないことは明らかでですが、ネオニコチノイドの正確な影響はまだ定量化されていません」と指摘している。
米国・ラトガース大学のオラフ・ジェンセン教授は、「この研究は説得力のある証拠を示しています。数十年間持続可能だった漁業が、農家がネオニコチノイドを使用し始めて1年以内に崩壊しました。これは、驚くほどに速い反応です」とガーディアンに答えている。ジェンセン教授はまた、この研究は、ネオニコチノイド系殺虫剤が食物網(食物連鎖がからみ合った食物連鎖網)に影響を及ぼす可能性があることを示している、と指摘している。
・Guardian, 2019-11-1 ・Buglife, 2017-12-12 ・Buglife, 2017-12米国でも河川のネオニコチノイド系農薬による汚染が確認されている。米国地質調査所(USGS)の研究チームは2018年4月、米国5大湖に流入する10の河川にネオニコ系農薬が通年存在している、と専門誌に発表している。発表によると、河川水のネオニコチノイド系農薬の濃度と検出頻度は、晩春から夏にかけて増加し、流域の栽培作物の割合が増加するにつれて、クロチアニジンとチアメトキサムの検出が大幅に増加したという。
・Environmental Pollution, 2018-4【関連記事】
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