中国・江蘇省疾病予防管理センターなどの研究グループは4月24日、グリホサート製造に従事する労働者について、グリホサートの尿中濃度と作業環境中のグリホサート量に相関関係があるという研究結果を専門誌に発表した。これまでの研究は、農民や農業労働者、園芸現場、あるいは食品を介して摂取する消費者に限られていたが、この研究は、農業や園芸現場での散布による暴露や食品を介しての暴露に比べ、より直接的にグリホサートに曝される製造工場の労働者がグリホサートを入り多く取り込んでいることが明らかになった。
この研究は、中国江蘇省と山東省のグリホサートを年間1万トン以上生産する4つの工場を対象に行われたもので、製造に従事する労働者が高い濃度のグリホサートに曝されていることが明らかになったという。研究グループは、製造現場の労働者134人から尿サンプルを採取し、グリホサートとその代謝物質AMPAの尿中濃度を測定した。作業に従事する労働者の8割以上から、グリホサートとAMPAを検出したという。尿中のグリホサートの平均値は0.262mg/L、最大値は17.202mg/L、AMPAの平均値は0.072mg/L、最大値は2.730mg/Lという高いレベルにあったとしている。研究グループはまた、尿中濃度と作業現場の空気中の濃度には相関関係があったとしている。
研究グループは、作業現場の空気中のグリホサート量と尿中のグリホサートとAMPAの量には相関があると結論付けている。工程別には、包装工程の空気中濃度が最も高く、この工程の労働者の尿中濃度が最も高かったという。
・MDPI journals, 2020-4-24研究グループは、グリホサート製造現場の労働者に関するグリホサート暴露の研究はほとんどないと指摘している。論文では2017年から19年にかけて発表された、農家や園芸従事者、消費者を対象とした6つの先行研究のデータを引用しているが、多くが平均で1μg/L前後、最大値も約10μg/Lと、今回の中国のグリホサート製造労働者の数百分の一以下であったという。製造に従事する労働者のグリホサート被ばく量が異常に高いことが明らかになった。
ラウンドアップに関しては、米国やカナダ、オーストラリアでは、モンサント(現バイエル)を相手取り、農家や園芸業者などによる5万件近い健康被害に対する損害賠償訴訟が起こされている。現在までに3件の訴訟で懲罰的賠償を含む数十億円の賠償を認める判決が下されている。バイエルは集団和解に向けて交渉を進めていると報じられている。今後、グリホサート製造に従事したことによる労働災害が明るみになる可能性もある。
グリホサートの毒性について、グリホサート単体で審査する各国の規制機関や農薬企業は、グリホサートは「安全」であるとの見解を崩していない。一方、市販される製品としてのグリホサート系除草剤には、補助剤として界面活性剤などが含まれており、総合的に判断すべきという見解がある。フランス・カーン大学のセラリーニ教授らの研究グループは2017年12月、補助剤の一つである界面活性剤POEA(ポリエトキシ化獣脂アミン)が強い毒性を持つという研究結果を発表している。
・Toxicology Reports, 2017-12,30【関連記事】
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