欧州特許庁拡大審判部は5月14日、「本質的に生物学的プロセスのみによって得られた植物および動物は特許性がないと結論付けました」と、従来育種による動植物に対する特許性を否認する決定を下したとの声明を発表した。昨年4月、欧州特許庁長官は拡大審判部に対して、動植物に対する特許付与について見解をまとめるよう付託していた。
・European Patent Office, 2020-5-142013年6月、モンサントの関連会社のセミニスは、機械による収穫を容易にするような形状のブロッコリーを従来育種により開発し、欧州特許庁(EPO)により特許が認められた。これに対して欧州の市民団体が2014年5月、ブロッコリー特許取り消しを求めて異議申立てを行った。欧州特許庁(EPO)は2018年9月、ブロッコリー特許の取り消し決定。ブロッコリー特許の取り消しを不服とするモンサントが上訴していた。
・European Patent Office, 2019-5 ・The patent EP 1597965(EPO特許公報)欧州の12のNGOなどが参加するNo Patents on Seeds! は14日、拡大審判部の決定を歓迎する声明を発表した。No Patents on Seeds! はこれまで10年以上にわたり従来育種による植物や動物に特許を認めるべきではないと主張し闘ってきた。
マーサ・メルテンスさんは、「私たちは10年以上にわたり、ブロッコリー、トマト、ピーマン、メロン、穀物などの特許に反対してきました。欧州の市民、園芸家、農家、消費者の名において、この決定を歓迎します。植物や動物の育種方法に関する知識は、何世紀にもわたって農家や育種家の活動から共通の利益として進化し続けており、産業界によって発明されたものではありません。将来的には、従来から繁殖されている動植物は、さらなる繁殖のために利用可能な状態にしておかなければなりません」と述べている。
一方で声明は、まだ「抜け道」が残っており、拡大審判部の決定ですべてが解決したわけではないとしている。「バイエル(旧モンサント)のような大企業が特許法を乱用して私たちの日常の食品を支配しようとするという大きなリスクはまだあります」と「問題はまだ解決していない」「既存の抜け穴を埋めるために、さらなる政治的決断が必要です」とキャサリン・ドランさんは指摘している。欧州特許庁(EPO)には、まだ数百件の従来育種による出願が審査中だという。最近でも、バジル、トウガラシ、マニオク、大麦、牛、羊、豚など約100件の新規特許出願が確認されたという。No Patents on Seeds!は、こうした審査中の特許出願の停止を求めている。
従来育種による特許を認めた場合、特許権者の許可なしには更なる育種に使用することはできなくなることから、特許品種を利用したさらなる育種の道を閉ざすことになると、No Patents on Seeds!は指摘している。「遺伝子工学のプロセスは、従来育種で使用されているものとは根本的に異なります。この違いを明確なルールで説明し、欧州特許庁での意思決定を行う必要があります」と、No Patents on Seeds! の広報のクリストフ・ゼンさんは説明している。
No Patents on Seeds!は今年4月、『欧州が食用植物や家畜の特許を禁止する必要がある11の理由』と題するレポートを発表している。
・No Patents on Seeds, 2020-5-14 ・No Patents on Seeds!, 2020-4今回の拡大審判部の決定に従えば、従来育種とは異なるゲノム編集作物の特許は取得できることになる。同様に、放射線や化学物質による突然変異を使った育種への特許は認められるようだ。ゲノム編集の中でも遺伝子の標的部分を切断後の自然修復の際に起きる遺伝子の変異を利用するSDN−1についても認められるようだ。日米などは、SDN−1は自然界で起きうるとしてゲノム編集とはせず、規制の対象外に置いている。一方、EUは欧州司法裁判所の決定により、すべてのゲノム編集は遺伝子組み換えに含まれるとしている。
No Patents on Seeds! は、従来育種と遺伝子組み換えやゲノム編集など遺伝子操作技術は別のものとして分けて、従来育種の動植物に特許を認めないように求めてきた。米国では2007年、遺伝子組み換えに関するモンサントの基本特許について、一時、パブリック・パテント・ファンデーション(PUBPAT)の異議申し立てにより特許無効の決定が出された。その後、モンサントの異議申し立てが認められた模様で、パブリック・パテント・ファンデーションのサイトから関係する一切の記事や文書が削除されている。
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