最終更新日:2020年5月22日
2020年
 07年 08年 09年 10年 11年
 12年 13年 14年 15年 16年
 17年 18年 19年 20年 21年
 22年 23年 24年
2020年5月
12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31
最近の記事
2022.12.29 No.1152
2022.12.25 No.1151
2022.11.30 No.1150
2020年5月の記事
2020.05.31 No.1041
2020.05.22 No.1040
2020.05.17 No.1039
2020.05.14 No.1038
2020.05.12 No.1037
2020.05.07 No.1036
2020.05.05 No.1035
2020.05.01 No.1034
2020年4月の記事
2020.04.28 No.1033
2020.04.23 No.1032
2020.04.08 No.1031
2020.04.06 No.1030
2020.04.05 No.1029
2020年3月の記事
2020.03.28 No.1028
2020年5月

2020.05.22 No.1040
■欧州委員会 2030年までの生物多様性・農業戦略を策定 有機農業を25%に
spray_glyphosate_oilseed-rape.jpg / Flickr
収穫前のナタネにグリホサートを散布する / Chafer Machinery / Flickr

 欧州委員会は5月20日、2030年までの10年間の新たで意欲的な農薬削減と有機農業拡大を明記した《自然を市民の生活に取り戻そうとする包括的な》生物多様性戦略と《公正で健康的で環境に優しい食料システムを目指す》農業食料戦略「農場から食卓戦略」を採択したと発表した。この2つの戦略は、国際農薬行動ネットワーク・欧州(PAN Europe)が指摘するように、農薬使用量を10年で半減させるという「革命的」なもので、農薬企業や農業団体からは反対があったという。

 2030年までの「農場から食卓戦略」の目標は、気候危機もある中で、農業における農薬や化学肥料の多用が、自然環境に大きな影響を与え、汚染し、その結果、生物多様性を大きく損なうものになっていることを認め、ここで踏みとどまり、改善しなければならないという欧州委員会の認識と決意の表れといえるだろう。しかし、目標が「革命的」なだけに、これからの10年での目標達成は容易ではないだろう。

 欧州委員会は、2つの戦略の目標を、陸と海の保護を強化し、劣化した生態系を回復し、生物多様性の保護と持続可能な食物供給の構築の両面で国際舞台でのリーダーとしてのEUの地位を確立することにより、この両面で、国際舞台でのリーダーとしての地位を確立することにあるとしている。

 2つの戦略は、相互に関係することから、有機農業比率や農薬削減など、一部重複する目標が設定されている。

 ●農場から食卓戦略の主な目標
  • 化学農薬のリスクと使用の50%削減
  • より危険な農薬使用の50%削減
  • 土壌養分の損失50%削減
  • 肥料使用量の20%削減
  • 畜産と海上養殖における抗菌剤販売量の50%削減
  • 有機農業を25%に拡大

 ●生物多様性戦略の主な目標
  • 保護対象となっている生息地や種のうち、好ましい状態にないものの少なくとも30%の保全状況の改善
  • 劣化した生態系を回復させ、生物多様性への圧力軽減
  • 農地に生息する鳥類や昆虫、特に花粉媒介動物減少の食い止め
  • 化学農薬のリスクと使用の50%削減
  • より危険な農薬使用の50%削減
  • 有機農業を25%に拡大
  • 肥料使用量の20%削減
  • 現存する原生林を保護と、少なくとも30億本の木の植樹

 ・European Commission, 2020-5-20

 国際有機農業運動連盟・欧州(IFOAM EU)は5月20日、欧州委員会の2つの戦略発表を受けて、「2030年までに欧州で25%の有機農地を達成するという目標と、プロモーションスキームやグリーン公共調達を通じた有機製品の需要を高めるための措置を歓迎する」という声明を発表した。

 代表のヤン・プラッジさんは、「有機農地のEU目標を提案することは、欧州農業のアグロエコロジーへの移行の中核に有機農業を据えた画期的な決定です。、環境へのメリットが実証されている農家にとって成功した経済モデルである有機農業を、将来のEUの持続可能な食料システムの礎にすることは正しい決定です。気候危機と生物多様性の危機に対処し、農業システムをより回復力のあるものにするには、EU農業の変革が必要です。現在進行中の共通農業政策(CAP)改革の交渉の中で、それらが十分に考慮されて初めて達成可能なものとなります」とコメントしている。

 ・IFOAM EU, 2020-5-20

 国際有機農業運動連盟・欧州(IFOAM EU)によれば、2018年、EUの有機農業は1380万ヘクタールと、まだ7.7%に過ぎず、10年で25%まで増加させるという目標は意欲的だ。

 ・IFOAM EU
bio_market_paris.jpg / Flickr
有機マーケット(パリ) / wdr3 / Flickr

 欧州議会内会派の一つ欧州緑グループ・欧州自由連盟(Greens/EFA)は5月20日、欧州委員会の2つの戦略発表を受けて、「特に2030年までに土地と海域の30%を保護し、有害な農業投入を減らすという委員会の野心を歓迎します」という声明を発表した。

 声明で同会派のグレース・オサリバン欧州議会議員(環境・公衆衛生・食品安全委員会)は、「水域、自然景観、野生生物を保護することは、地域的な市場、漁業者や農家の繁栄、動物の福祉に焦点を当てた食料供給の安定性を確保するために不可欠です。生態系の多様性は、農地や漁業の生産性を高め、長期的な保護を行うことで、生態系の崩壊を防ぎ、長期的な回復力と食料安全保障を実現することができます」と、コメントしている。

 ・Greens/EFA, 2020-5-20

 国際農薬行動ネットワーク・欧州(PAN Europe)は5月20日、欧州委員会の発表を受けて、「欧州委員会全体が農業を抜本的に改革する必要性を認めたという事実は、それ自体が革命である」と指摘し、「世界ミツバチの日に、生物多様性の保護と公衆衛生と環境衛生を欧州の食糧政策の最前線に位置づける欧州委員会の本日の発表を歓迎するとともに、農場から食卓戦略と生物多様性戦略の下で、欧州における化学農薬の使用を削減するための行動をとることを約束する」との声明を発表した。

 声明ではまた、欧州委員会の2つの戦略文書が「現在の食品生産システムが全く持続不可能であることを明確に認めたものである」「欧州委員会は、農薬への依存度を減らし、有機農業を増やし、生物多様性の損失を逆転させることが緊急の課題であることを認めている」と、欧州委員会の決定を評価している。

 国際農薬行動ネットワーク・欧州の環境政策担当のマーティン・ダーミンさんは、「化学農薬は生物多様性減少の主要な原因です。欧州委員会によるこの転換は、確実な実行を伴う行動によって続けられなければなりません。私たちは、50%削減が進歩的な目標であると信じています。しかし、生物多様性を回復させるには、さらなるエネルギーが必要です。EUで20年以内に化学農薬を使わない農業を実現するために、さらなる目標を設定すべきです」と指摘している。

 また、国際農薬行動ネットワーク・欧州のハンス・ミュイルマンさんは、「歴史上初めて、欧州委員会は、アグリビジネスの利益に反して、農場から食卓戦略と生物多様性戦略に農薬使用量の削減目標を設定し、あえて科学に耳を傾けようとしています。市民社会の戦いの数十年後、欧州委員会が、加盟国が最終的にこれらの目標を適切に実施し、EU市民と環境を保護することを確認することを願っています」と付け加えている。

 ・PAN Europe, 2020-5-20

 一方、グリーンピース・欧州とFoE欧州は、2つの戦略へのこうした一定の「前向きな評価」とは一線を画した辛口の評価を明らかにしている。

 グリーンピース・欧州は5月20日、農場から食卓戦略について「食肉の過剰生産と過剰消費が健康、自然、気候に与える影響を認めたが、それを減らすための行動は提案していない」と指摘する声明を発表した。

 声明では、「欧州委員会は最終的に科学を受け入れ、あまりにも多くの肉を生産し、消費することが健康を害し、自然を破壊し、気候変動を駆動していることを認識しているが、何も行動しないことを選択しています」と指摘し、EUが共通農業政策(CAP)により食肉や飼料の生産に約300億ユーロを支出し、肉の消費拡大の広告を打っていると批判している。19日にリークされたドラフトから後退した内容になったのは、畜産業界からの圧力に屈したともしている。声明では、農薬の50%削減目標などについて全く触れていない。

 ・Greenpeace European, 2020-5-20

 FoE・欧州は5月20日、「大きな飛躍ではなく、小さな一歩を踏み出す」と題する声明を発表した。欧州委員会が初めて、食糧危機や農業危機、生態系危機に取り組むための一貫した政策を提示し、肯定的な政策が含まれているものの、まだまだ不十分だと指摘している。

 声明では、「肉や乳製品、卵の消費の削減や、遺伝子組み換え作物の新潮流の推進、「公正で、健康的で、環境に優しい」食品システムへの戦略のコミットメントを弱体化させる不十分な農薬削減目標に対する、首尾一貫した具体的な法律がかけていると考えています」と指摘している。また、農薬使用や工業的農業の受容、弱い遺伝子組み換え作物への規制が生態系の崩壊を引き起こしていると指摘し、農場から食卓(Farm to Fork)戦略は、遺伝子組み換え作物の安全性への規制は弱いままであり、農薬や工業的畜産に関しては危険庵ほど弱いままであると、規制の脆弱さを指摘している。「アグリビジネスの幹部は、今夜はよく眠れるでしょう」、とコメントしている。

 生物多様性戦略に関しては、「生物多様性に関する取引を規制するためのアイデアが初めて盛り込まれているが、拘束力を持つものではなく、その影響は最小限にとどまる可能性が高いと考えられる」と指摘している。また、フリードリヒ・ヴルフさんは「これは歓迎すべき第一歩」「工場農業や農薬を段階的に廃止し、持続可能な地元の農家によって私たちの食料が生産されることを保証するために、共通農業政策の大規模な見直しから始めるべきです」とコメントしている。

 ・Friends of the Earth Europe, 2020-5-20
eu_eci_save_bees.jpg
EU市民発議 Save Bees and Farmers

 国際農薬行動ネットワーク・欧州とFoE・欧州は、他のNGOとともに、2030年までに合成農薬の80%を、2035年までに100%削減することを求める、EU市民発議「Save Bees and Farmers」の呼びかけ団体。この市民発議は、昨年9月30日に始まり、現在、約36万人の署名を集めている。EUの死因は次の制度は、1年間で署名が100万人に達すると、欧州委員会は何らかの措置をとることが法的に求められる。

 ・European Citizens' Initiative
【関連記事】
カテゴリー
よく読まれている記事