エチオピアの消費者団体やNGOなど11団体は5月28日、アフリカの40団体の賛同署名を添えて、エチオピア政府に対して遺伝子組み換え作物の商業栽培と試験栽培の5年間の一時禁止などを求める要請書を提出した。エチオピアは2018年、害虫抵抗性遺伝子組み換えワタの商業栽培を承認し、水有効利用トウモロコシプロジェクト(WEMA:Water Efficient Maize for Africa)の干ばつ耐性遺伝子組み換えトウモロコシの屋外圃場試験を承認したという。こうした政府の推進姿勢に対してブレーキをかけるように求めた。
要請書は、屋外圃場試験を承認された水有効利用トウモロコシプロジェクト(WEMA)の干ばつ耐性遺伝子組み換えトウモロコシは、南アフリカ政府が承認申請を却下していること、商業栽培を承認した害虫抵抗性遺伝子組み換えワタがインドやブルキナファソで失敗していることを指摘している。そして、「遺伝子組み換え作物が長期的に生産性を向上させたり、農薬の使用量を減らしたり、環境問題に取り組んだりすることを証明するものはほとんどありません。実際、遺伝子組み換え作物が健康リスクを高め、栄養面で劣悪であり、環境にも悪影響を及ぼすという証拠は山のようにあります」としている。
要請書はまた、エチオピアの2千万人以上の人々の主食でもあるエンセーテ(エチオピアバナナ)について、エチオピア農業研究所と国際熱帯農業研究所(IITA:International Institute of Tropical Agriculture)が共同で進めている、耐病性遺伝子組み換え品種の開発は非常に懸念されることだとしている。
こうしたエチオピアの遺伝子組み換え作物の導入に向けた動きに対して、11団体は次の6項目を要請している。
- 適切な制度と規制の仕組みが確立され、適切な国民の協議が行われるまでは、遺伝子組み換え作物の実地試験と商業栽培を少なくとも5年間は一時的に停止すること
- エチオピアが農業システムの一部として遺伝子組み換え作物を受け入れるべきかどうかについて、早急に公式の協議を行うこと
- カルタヘナ議定書の義務を尊重し、生物多様性と人間の健康を守るための厳格な規制を行うこと
- 私たちの回復力、アイデンティティ、そして未来の基礎であるエチオピアの多様な食用植物や動物に対して、積極的な遺伝子組み換え作物推進者による改変をストップさせること
- 人々の健康と環境を守るために設立された機関の能力を高めること
- 遺伝子組み換え製品の評価のための、独立で透明性のある仕組みを構築すること
この要請に先立つ今年5月初め、元エチオピア環境保護庁長官で カルタヘナ議定書の交渉にエチオピア代表団を率い、途上国グループも代表して交渉に当たったテヴォルデ・エグザイアバー博士が、政府に公開書簡を送り、カルタヘナ議定書を守るように求めた。エグザイアバー博士は書簡で、エチオピア政府がカルタヘナ議定書を無視しているのであれば、国際法違反であることは明らかだと指摘した。
エグザイアバー博士また、「エチオピアの若い世代の人たちに、できる限りの方法で抗議することを勧めたいと思います」と呼び掛けている。公開書簡は最後、「アフリカや世界の若い世代には、バイオセーフティを含む国際法を世界的に尊重し続けるよう、それぞれの政府に働きかけることを呼び掛けます」と結んでいる。
・Ethiopia Observer, 2020-5-8エチオピア政府の遺伝子組み換え推進の動きに対して、米国農務省は今年2月、評価する報告書を公表している。報告書は、「エチオピア政府は、首相官邸から下に至るまで、国の食料安全保障を達成するためのツールとして農業バイオテクノロジーの商業化に関心を公に示している。2018年には、同国は最初のバイオテクノロジー作物である害虫抵抗性(Bt)遺伝子組み換えワタの商業化と、干ばつ耐性・害虫抵抗性遺伝子組み換えトウモロコシの限定的圃場試験を正式に承認した。その他の作物としては、エンセーテなどがあるが、これも限定的圃場試験のレベルにある」としている。
・USDA Foreign Agriculturl Service, 2020-2-5エチオピア南部の人々の主食でもある、茎や根茎のでん粉を利用するエンセーテ(エチオピアバナナ)の耐病性遺伝子組み換え品種の開発が進んでいるという。国際熱帯農業研究所(IITA)は2013年、エチオピア農業研究所と遺伝子組み換えエンセーテの開発プロジェクトを発足させたとの発表した。そして、ビル・ゲイツ財団から259万ドルの資金援助を受けていることを公表している。2016年には、耐病性遺伝子組み換えバナナでの成功を踏まえ、エチオピア農業研究所と協力して、バナナからエンセーテに遺伝子組み換え技術の移転を試みている、と開発中であることを明らかにしている。
・IITA, 2016-7-28 ・IITA, 2013-12-16国際熱帯農業研究所(IITA)は、トウモロコシやエンセートのほかに、アフリカの人々の主食であるキャッサバやヤムイモの遺伝子組み換え品種の開発も進めていることを明らかにしている。これまでの遺伝子組み換え作物は、主に大豆やトウモロコシなどの飼料用途の比重が大きかった。しかし近年、主食となる穀物への遺伝子組み換えやゲノム編集による遺伝子操作品種の開発が明らかになってきてる。カロテン「強化」遺伝子組み換えゴールデンライスや、複合耐病性イネ、収量増を狙った光合成強化イネのような遺伝子組み換え米に加え、ゲノム編集による除草剤耐性小麦の開発が進んでいるという。開発や商業栽培にストップをかけなければ、将来、「非GMもの」は高級品となり、パンもご飯も「GMもの」を食べるしかないような食生活が、気候危機に伴う食料危機の中で、否応なく押し付けられることになるかもしれない。
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