バイエルは6月24日、米国でのラウンドアップ訴訟に関し最大109億ドルを支払うことで和解合意に達したと発表した。高額の賠償命令を受け上訴中の3件は除かれるものの、最大96億ドルで裁判中と提訴予定の12万5千人に達した原告の75%をカバーするとしている。バイエルはまた、ラウンドアップに関する将来の提訴に対して12億5千万ドルを用意するという。これらの合意は裁判所の承認を必要とするとしている。
バイエルは、このラウンドアップ訴訟和解合意の発表で、係争中のジカンバ訴訟に関しても解決に最大4億ドルを支払うと発表した。今年2月、2億6500万ドルの賠償命令を受け上訴中の、ジカンバにより被害を受けた桃農家(ベーダー・ファーム)はこの和解案には含まれないとしている。またこの和解案には、もう一方の被告のBASFは関与していないようで、バイエルは「BASFの貢献を期待する」と述べている。
・Bayer, 2020-6-24 ・日経, 2020-6-25この和解によれば、一人当たりの補償は5千ドルから数十万ドルになると見られているという。すでにがんを発症して治療を受けている人にはあまりに少額だとも報じられている。この和解を不満として訴訟を継続する原告は2万人以上だという。
また、今後、新たに補償を受けようとする被害者は、新らたに設立される科学委員会に科学的な証拠を添えて申請する必要があるという。
バイエルは2018年、630億ドルでモンサントを買収したが、モンサントの「遺産」ともいうべきラウンドアップ訴訟のほかに、除草剤ジカンバによる農作物被害や、PCB汚染に関する訴訟を抱えていた。今回の和解合意は、こうした「遺産」を一挙に「解決」しようというもの。この和解合意が裁判所の承認得たとしても、ラウンドアップの販売は継続する一方で、禁止を含む使用規制は進んでおらず、健康被害が絶えるということにはならない。
米国地質調査所によれば、米国では年間約3億ポンド(約13万トン)のグリホサートが使用されている。その約3分の1が大豆に、約3分の1がトウモロコシに使用されている。数量としてははっきりしないが、公共用地や個人宅なども除草に使用されている。ラウンドアップ裁判の原告には、学校の校庭整備に従事していた人や、庭師としてラウンドアップを使用してがんを発症した人が含まれている。コスコトなど大手小売りの一部ではグリホサート剤の取り扱いを止めるところも出てきている。
ラウンドアップの危険性を警告し、バイエル社の上訴に対するハードマン裁判の弁護活動を支援してきた食品安全センター(CFS)は24日声明を発表し、同センター・科学政策アナリストのビル・フリースさんのコメントを掲載した。
「どのような金銭的な和解でも、モンサント社のがんの原因となるラウンドアップによって失われた痛み、苦しみ、命を救うことはできません。しかし、この和解は、少なくともいくつかの小さな損害賠償をもたらしました。より重要なのは、この危険な製品を使用して同様のリスクに陥ることを思いとどまらせるのには役立ちます」と述べている。
今回の和解には、損害賠償がなされるとはいえ、使用規制には効力が及ばず、食品安全センターの指摘する“注意喚起”以上の“効力”はない。
・Center for Food Safety, 2020-6-24グリホサートは日本でも“人気”で、家庭用としての使用量ははっきりしないが、農薬として年間約6千トンが使われている。米国の10万人以上が被害を訴えている状況は「対岸の火事」ではないはずだ。来年度より始まる農薬の見直しで、グリホサートは優先審査農薬の一つに挙げられている。
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