

米国の要求を受けて、米国産加工用生鮮ジャガイモの輸入規制が緩和され、生食用の輸入承認に向けての協議が始まっているという。すでに農水省は、米国産のポテトチップ加工用生鮮ジャガイモの通年輸入を認める規制緩和を今年2月に行い、さらに米国の要求を受けて生食用ジャガイモの輸入解禁に向けて協議を始めるという。厚労省もこの6月、ポストハーベスト(収穫後散布農薬)として、発がん性や神経毒性が指摘されている殺菌剤ジフェノコナゾールを、生鮮ジャガイモの防カビ剤として食品添加物に指定した。当面はポテトチップス加工用に限定されるとはいえ、防カビ剤を使ったジャガイモの通年輸入が始まる。さらに現在、食品安全委員会では、米国シンプロット社の2種類の遺伝子組み換えジャガイモの健康影響評価が行われている。
米国産加工用ジャガイモの規制撤廃 生食用は協議へ
農水省は今年2月、ポテトチップ加工用の米国産生鮮ジャガイモに対する規制を撤廃し、輸入拡大に踏み切った。米国は2017年、米国産ジャガイモに対する規制撤廃を要求していたが、これを受け入れた形だ。これまで米国産生鮮ジャガイモは、輸入期限を2月〜7月に限定し、輸入後すぐに加熱加工処理施設で加工できないときは2か月に限定して隔離施設での保管を条件に輸入を認めてきた。規制撤廃により、ポテトチップ加工用の米国産生鮮ジャガイモの通年輸入を可能とした。
昨年12月、農水省は規制撤廃に向けた意見公募を実施。提出された意見はいずれも、規制撤廃に反対するものや、農水省の方針に疑問を呈するもので賛成は1件もなかった。しかし農水省は今年2月、輸入期間と保管期間の2つの規制を撤廃し、通年輸入を認めた。
・農水省, 2019-12 ・農水省, 2020-2 ・農水省, 2020-2-14米国産生食用ジャガイモ輸入解禁で協議開始へ
農水省が米国の要求を受け、生食用の米国産生鮮ジャガイモの輸入を検討していると認めた、と8月1日付けの赤旗が報じた。赤旗によれば、7月28日、日本共産党の紙智子参議院議員の聞き取りに対して、農水省の担当者が、米国政府から今年3月に生食用のジャガイモの輸入解禁要求があったことを認め、「今後、協議に入る」と回答したという。
2025年8月、日本で初めてジャガイモの害虫であるシロシストセンチュウが網走で見つかったものの、日本に持ち込まれた経緯は明らかになっていない。また北海道農業協同組合中央会は「バレイショ生塊茎(かいけい)の輸入解禁は、海外からの病害虫流入のリスクを高め、国内バレイショ生産規範の毀損につながる。断じて容認しないこと」を求めているという。上議員は、こうした点を指摘し、輸入解禁を拒否するよう強く求めたとしている。
・赤旗, 2020-8-1米国産ジャガイモは昨年、生鮮品が約3万トン、冷凍品が約1万トン余り輸入されている。通年輸入を認めたことで、今まで以上に輸入量は増えるだろうし、生食用が加わればより増加するのではないか。さらには、北海道農業協同組合中央会が指摘しているように、シロシストセンチュウのようなジャガイモの害虫流入のリスクが高まることは確実だ。
合 計 | 米 国 | 中 国 | その他 | |
---|---|---|---|---|
生鮮 | 31,226 | 31,213 | 13 | 0 |
冷凍 | 25,051 | 11,514 | 12,881 | 656 |
乾燥 | 48 | 36 | 4 | 8 |
農薬のジフェノコナゾールを添加物指定へ
こうした、農水省の米国産生鮮ジャガイモの輸入規制緩和に並行して、厚労省は今年6月、これまで柑橘類に認めてきたポストハーベスト用防カビ剤として殺菌剤ジフェナコナゾールを食品添加物に指定し、併せて残留基準値を緩和した。
日本は、収穫後に散布する農薬(ポストハーベスト)を認めていないが、厚労省は6月18日、「事業者より指定等の要請がなされたこと」から殺菌剤ジフェナコナゾールをジャガイモに限定して、ポストハーベスト用に食品添加物として指定した。併せてジフェナコナゾールの残留基準値を改定し、ジャガイモについてこれまでの0.2ppmを4ppmに緩和した。ジフェノコナゾール自体は、チバガイギー社により開発された農薬=殺菌剤であり、日本では現在10剤が農薬登録されている。
1970年代、厚労省は消費者の反対を仕切って、農薬OPPとTBZをレモンの柑橘類のポストハーベスト用防カビ剤として食品添加物の指定を実施した。その後、いくつかが柑橘類へ認められてきた。今回の防カビ剤として食品添加物指定は、米国産生鮮ジャガイモの輸入規制緩和が目的の指定である。
この農薬としても登録され、原体に換算して年間10トン前後が使用されているジフェノコナゾールは安全なのか。食品安全委員会は2019年6月、ジフェノコナゾールに関し、一日摂取許容量(ADI)を0.0096 mg/kg体重/日に、また急性参照用量(ARfD)を0.25 mg/kg体重とする食品健康影響評価書を決定した。評価書では、マウスに発がん性が、ラットに神経毒性が認められたとしている。評価書は次のように、ジフェノコナゾールの発がん性と神経毒性を認めている。
ラットの急性及び亜急性神経毒性試験において前肢又は後肢の握力低下が認められた。
・食品安全委員会, 2019-6-18
食品安全委員会の評価を受けて、厚労省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会は2019年9月、ジャガイモのジフェノコナゾール適用について審議し、同年10月に部会報告を食品衛生分科会に提出している。部会報告は、食品添加物としてのジフェノコナゾールについて、ジャガイモ以外の食品に使用してはならず、残留基準値をジャガイモ1キロ当たり0.004gとした。
・食品衛生分科会添加物部会, 2019-9-18 ・食品衛生分科会添加物部会, 2019-10-23厚労省は2020年2月27日、「事業者より指定等の要請がなされたこと」から殺菌剤ジフェナコナゾールをジャガイモに限定し食品添加物として指定すると公表した。併せて公表したジフェナコナゾールの残留基準値の改定案では、ジャガイモについて現行の0.2ppmを4ppmに緩和するとしていた。厚労省は5月実施を予定しているとしていたが、ようやく6月18日になり、ジフェノコナゾールを食品添加物として指定した。同日公表された意見公募の結果では、11件の意見があったが、いずれも指定に反対であり賛成意見はなかったとしている。中でも、ジフェノコナゾールの発がん性と神経毒性をあげて私邸に反対する意見や、ポストハーベスト(収穫後散布農薬)を拡大すべきでないといった当然な意見があった。また、今回の指定が米国からの生鮮ジャガイモの輸入拡大につながるとの意見もあったとしている。今回の農薬(殺菌剤)ジフェノコナゾールを食品添加物として使用することは、日本の農業にとっても有害無益だ。
・厚労省, 2020-6-18 ・厚労省, 2020-6-18 ・日本消費者連盟, 2020-3-26 ・反農薬東京グループ, 2020-3-31規制緩和はGMジャガイモの輸入の可能性を高める
米国ではすでに、シンプロット社の遺伝子組み換えジャガイモが流通している。第一世代は、打撲による黒斑の減少と、加熱加工の際の有毒なアクリルアミドが少なくなることを売りにしていた。第二世代は、低アクリルアミドとともに疫病耐病性を付加した。シンプロットの遺伝子組み換えジャガイモは、2品種が食品として承認されている。さらに、今年5月と7月、新たに2品種の審査が食品安全委員会で始まっている。食品としての審査と同時に、飼料としての審査も行われている。シンプロットとしては、当然、日本への輸出を見越した申請であることに異論はないだろう。
これまでに遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンの公開質問状に、ポテトチップスメーカーや多くの大手外食チェーンは、遺伝子組み換えジャガイモを使うつもりはないと回答している。したがって、今のところ、ポテトチップス原料にシンプロット社のGMジャガイモが、使われている可能性は、ほとんどないのかもしれないが、貿易統計などでその実態を知ることはできない。
一方、ファミリーレストランのような外食店では、遺伝子組み換えジャガイモを使ったとしても表示義務はなく、使用しないと明言した大手は別としても、ロッテリアのように回答拒否しているチェーンで、遺伝子組み換えジャガイモが使われていたとしても、消費者には分かりようがない。レストランなどでの遺伝子組み換え表示の義務付けが必要である。
表示義務のない食品や外食店での使用に表示を義務づけのない現状では、消費者の知らないところで、輸入された遺伝子組み換えジャガイモが使われている可能性は否定できない。輸入規制が緩和され、生食用ジャガイモにまで輸入が認められることは、遺伝子組み換えジャガイモが使われる可能性がより高くなる。
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