最終更新日:2020年8月14日
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2020.08.14 No.1054
■遺伝子操作でバッタの群生は阻止できるのか 遺伝子組み換え蚊の放出は予想外の失敗
locusta_migratoria.jpg / Flickr
トノサマバッタも大群を作り蝗害を引き起こす / Greg Peterson / Flickr

 中国科学院の康楽(Le Kang)教授らの研究グループは8月12日、大発生して作物や植物を食いつくすバッタの大集団は集合フェロモンが関係している可能性があるという研究結果をNatureに発表した。トノサマバッタ(Locusta migratoria)を使った研究で、わずか4匹でも4−ビニルアニソール(4VA)という集合フェロモンが連鎖的に放出され、4VAが周囲のトノサマバッタを引き寄せ、群れを作るという。野外実験でもトノサマバッタを誘引したという。現在、サバクトビバッタの防除には有害な化学農薬(殺虫剤)の使用以外の手段がない中で、この集合フェロモンは、殺虫剤を使用しない新たな防除方法の考案につながる可能性があるという。

 研究グループは、ゲノム編集技術を使い、トノサマバッタの触覚にある4VA受容体をノックアウトしたところ、触角の電気生理学的反応が著しく低下し、4VAに誘引されにくくなったという。研究グループはこの結果について、バッタの新しい防除戦略を開発するための洞察を提供するものだとしている。

 研究グループはまた、アフリカで猛威を振るっているサバクトビバッタ(Schistocerca gregaria)でも4VAが存在するか確認する必要があるとしているという。

 この研究結果にAFP(日本語電子版)は、「遺伝子操作によってバッタの群生を食い止めたり、4VAの放出を追跡することで大群の発生を予測したり、4VAを利用したわなでバッタをおびき寄せて駆除したりといった蝗害(こうがい)対策の可能性が期待されている」と報じている。ロイターは、遺伝子操作で4VAに反応しないバッタを作り出し自然界に放出することは可能だが、「バイオセキュリティの評価を前提とする」という康教授のコメントを伝えている。しかし、遺伝子操作で4VA受容体の機能をノックアウトしたバッタを大量に作り出し、自然界に放出することは容易ではないだろう。生態系への影響が大きい遺伝子操作のバッタ放出には、軽々しく手を出すべきではない。

 ・Nature, 2020-8-12  ・AFP, 2020-8-13  ・Reuters, 2020-8-13

 遺伝子ドライブが失敗したケースとしては、昨年9月、デング熱などを媒介するネッタイシマカの絶滅を狙ったオキシテックの不妊化した遺伝子組み換え蚊の放出が、「絶滅」どころか、野生種と交雑してより強力な蚊を生み出していたという研究結果が報告されている。この研究は米国・イェール大学などの研究グループによるもので、ブラジル・ジャコビナで放出された遺伝子組み換え蚊の遺伝子が、予想に反して野生種に組み込まれていることを確認したと専門誌に発表している。当初激減すると予測された蚊の個体数は18か月で回復し、遺伝子組み換え蚊の放出は失敗だった。

 ・Scientific Reports, 2019-9-10  ・Yale University, 2019-9-10

 このオキシテックの遺伝子組み換え蚊の失敗が示すように、遺伝子操作で集合フェロモン4VAに反応しないバッタを作り出し、自然界に放出することは行うべきではない。


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