

オーストラリア・サザンクロス大学の研究グループはこのほど、ネオニコチノイド系殺虫剤の一つイミダクロプリドがエビ(ブラックタイガー)の摂食行動に影響を与え、栄養不足や肉質の低下につながることが明らかになったと発表した。実験室レベルではあるものの、エビの神経系は昆虫と類似性があると指摘し、「適切に管理されていなければ、これらの農薬は養殖および捕獲エビ漁業の生産性と持続可能性に影響を及ぼす可能性があります」としている。ネオニコチノイド系農薬とミツバチなど受粉を媒介する生物(ポリネーター)との関係に関心が集まっているが、その影響は陸上にとどまっているわけではない。
研究では、ブラックタイガーをイミダクロプリド濃度が1リットル当たり5μgと30μgの水で、1グラム当たり12.5μgと75μgのエサを飼養。エビは4日以内に、水とエサからの曝露で体重1グラム当たり最大0.350μg のイミダクロプリドを蓄積したという。曝露したエビはまた、エビの摂食率が低下し体重が著しく減少したという。総脂質含量も有意に減少し、その脂肪酸組成は対照群と比較して変化したという。これらの結果はネオニコチノイドへの曝露が栄養不足を引き起こし、エビの生産性と食の質に影響を与えることを示しているという。
この結果について、研究グループのピーター・ブッチェリンさんは、「ネオニコチノイド系殺虫剤の大量流出の影響を受けた地域で、養殖および野生のエビが影響を受ける可能性があることが示された」と指摘している。研究グループのベンケンドルフ教授は、この研究が「生産性の高い水産業がある沿岸地域における農薬の使用と、集約農業からの流出を効果的に管理する必要性を明らかにした」と指摘している。教授はまた、「河川のネオニコチノイド系農薬の濃度と河口域の環境について、さらなる研究が必要」ともしている。
研究グループは、別の研究でイミダクロプリドが岩ガキの免疫系に影響を与えるとの結果を発表している。ベンケンドルフ教授は「これら2つの研究は、甲殻類と軟体動物の両方が殺虫剤に対して脆弱であり、免疫系を弱め、病気にかかりやすい状態にあることを示している」と述べている。
・Southern Cross University, 2020-8-20 ・Ecotoxicology and Environmental Safety, 2020-5-1 ・Science of The Total Environment, 2020-6-27昨年11月、産総研などの研究グループが、宍道湖の漁獲高の激減は、その年に田んぼで使われ始めたイミダクロプリドが原因と考えられるとの研究結果を発表している。農業で使用された殺虫剤が河川を通して海に流出し、エビや魚などに直接的、間接的に悪影響を与えているということだ。今回のサザンクロス大学の研究結果は、ネオニコチノイド系農薬の規制が川や海の生物にとっても好ましいことを示している。
日本でも、農業で使われた農薬が川に流れこんでいるという調査結果が発表されている。東海大学の研究グループは昨年、神奈川県の金目川水系の川の水のネオニコチノイド系農薬の濃度が農協の農事暦に対応しているという調査結果を発表した。検出されたネオニコチノイド系農薬はイミダクロプリド、アセタミプリド、クロチアニジン、ジノテフランの4種類。研究グループは、ネオニコチノイド系農薬が世界的に減少傾向にあるのに対して、日本は世界と逆行した動きがあると指摘し、今後も継続した調査が必要だとしている。
・臨床環境医学陸上の農業だけではなく、サケの養殖場でネオニコチノイド系殺虫剤を使おうという動きも明らかになっている。養殖サケの寄生虫駆除にイミダクロプリドを入れたタンクにサケを入れようというもので、スコットランドの養殖業界の導入計画が今年の春に暴露されている。米国ワシントン州のカキ養殖でもイミダクロプリドが使用されそうになっていたが、環境団体の介入もあり、2019年、ワシントン州当局とカキ養殖業者団体との間で使用禁止協定が締結され、イミダクロプリドの使用は阻止されている。
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