

米国黒人農民協会は8月26日、バイエルを相手取ってラウンドアップの販売停止か、より明確な危険性の表示を求めて連邦地裁に提訴した。協会は、モンサントが安全だとしていたために、除草剤を使用した黒人の農民ががんを発症したとしている。また、モンサントがライバルの種子企業を買収したため、黒人農家はラウンドアップ耐性作物の使用を余儀なくされたとしているという。米国黒人農民協会は42州の約11万人の黒人農家を代表しているという。
訴状によると、モンサントが種子会社と地域の種子店の棚スペースを徐々に買い占めたことで「伝統的な品種が締め出されて」、事実上、栽培農家が除草剤ラウンドアップ耐性の遺伝子組み換え種子を使うことを義務づけているという。また、黒人農民の「圧倒的多数」がこの製品を使用し、それに伴うリスクの影響を過度に受けているという。
同協会会長のジョン・ウェズリー・ボイド・ジュニアさんは、「ラウンドアップが禁止されれば、私のような農家がより安全になるだけでなく、従来の種子市場の復活への道が開かれるだろう」と語っているという。
また同協会の弁護士は、「黒人農民は識字率が低く、インターネットへのアクセスが少ないため、ラウンドアップのリスクを理解する可能性が低かった」と述べたという。
バイエルは、種子も除草剤も選択肢は豊富にある、とコメントしているという。
・Reuters, 2020-8-27 ・STLtoday, 2020-8-26この提訴に関して、弁護士が黒人農家の識字率の低さやインターネットへのアクセスの少なさを指摘している。経済的格差によりラウンドアップの危険性を認識できなかったことで、被害を受けているということだ。このことは、米国のヒスパニック系の農業労働者にも当てはまるだろう。実際、今年8月に米国議会に提出された「子どもを守る農薬規制強化法案」では、農業労働者保護の観点から、全ての農薬表示についてスペイン語の表示を義務付け、実際に使用する農業労働者が理解できるようにすることを求めている。農薬を使う限り、被害を最小限に押さえるには、情報へのアクセスと理解への「壁」をなくすことが絶対的に必要だ。カリフォルニア州は、2015年の国際がん研究センターのグリホサートに発がん性の可能性があるとの評価を受けて、グリホサート製剤への危険性表示の義務化を図ったが、モンサントの横やりにより実現していない。
この多言語による農薬の危険表示の問題は、日本でも避けて通れない問題である。海外からの農業技能研修生が1万人を超えているという。農薬使用にあったって、保護具の使用は当然としても、その使用上の警告と注意が日本語だけで、実習生はきちんと理解できるのだろうか。確実に安全を確保できるか疑問だ。
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